モラトリアム法がなくなっても「ゾンビ企業」は生き延びる
政府・与党は、3月末で期限切れとなる中小企業金融円滑化法(モラトリアム法)を再延長しないことを決めた。この法律はリーマンショック後の不況のとき、亀井静香金融担当相(当時)がつくった時限立法で、本来は2011年3月に切れる予定だったが、2年延長されていたものだ。
この法律は、中小企業などが金融機関に返済猶予や金利の軽減を申し入れた際に、できる限り貸付条件の変更を行うよう努めることなどを定め、企業が破綻した場合は貸し倒れ債務の40%を公的に補填する。昨年9月までの中小企業向けの返済猶予の実行件数は363万件、金額は100兆円にのぼる。対象になった企業は32万社で、これは中小企業の8%以上に及ぶ。
公明党はぎりぎりまで「半年延長してほしい」といっていたが、最終的には政府が「法の趣旨を踏まえて終了後も金融支援を続ける」と約束して決着したという。金融庁は銀行に対して内々に「急に金融支援を打ち切ることのないように」と行政指導しているといわれ、実態はあまり変わりそうにない。
片山さつき参議院議員のブログによると、政府系金融機関から「経営支援型セーフティネット貸し付け」5兆円、信用保証協会から5兆円の「資金繰り支援」が行なわれるほか、「地域経済活性化支援機構」という政府系ファンドが創設され、政府保証枠1兆円が創設されるなど、盛りだくさんの救済措置が準備されている。
こうした金融支援は当の企業にとってはありがたいだろうが、いつまでも続くと、企業は営業努力をしないで役所に陳情するテクニックを磨くことになる。両者はまったく違う仕事である。営業努力はつねに収益を上げなければならないが、役所に陳情するときはなるべく大きな赤字が出ているほうがいい。
こういう救済措置を繰り返してきた結果、日本の中小企業は収益を上げないで役所に泣きつく癖がついてしまった。おまけに雇用調整助成金で一時帰休している社員の休業補償の2/3を役所が出してくれるので、人員整理もしない。みんな仲よく問題を先送りし、社長の最大の仕事は役所や銀行から運転資金を引っ張ってくることだ。
こういう企業を、星岳雄氏(スタンフォード大学教授)はゾンビ企業と呼んでいる。これは市場から退出すべき古い企業が銀行や政府の支援を受けて生き延びているもので、90年代のバブル崩壊で急増し、2000年代になってもあまり減少していない。人材がこういう企業に閉じ込められているため、新しい企業にいい人材が集まらない。
自民党も民主党も一貫して、ゾンビ企業を延命する政策をとってきた。自民党政権の公共事業の真のねらいは、業績の悪化した地方の土建業者の救済であり、民主党政権の雇用調整助成金やモラトリアム法も、ゾンビ企業の社内失業者を守る政策だ。おかげで企業の新陳代謝が進まないことが、20年以上にわたる長期停滞の元凶である。
安倍首相の進めている日銀の超緩和政策は、こういう問題の先送りを促進する。ゾンビ企業が資金を有効利用しなくても、金利はゼロだからコスト意識が出てこない。社員を遊ばせていても役所が雇用調整助成金で赤字を補填してくれる。こんな状況で、誰がきびしいリストラをするだろうか。
ところが安倍首相は、こうした構造改革については何一つ具体策を出さない。夏の参議院選挙までは、痛みをともなう政策は徹底的に先送りする方針らしい。小泉政権で株価が上がったのは、彼が勘違いしているように量的緩和のおかげではなく、構造改革のおかげだ。その甘い部分だけをつまみ食いするアベノミクスは、小泉改革のような成果を上げることはできないだろう。
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