野田政権はなぜ敦賀原発を「事後法」で廃炉にしようと急ぐのか
野田首相は13日、日本原子力発電の敦賀原発(福井県)2号機について再稼働を認めない方針を明らかにし、「稼働しないと収益がなくなるので、事業者の判断で廃炉にすることになると思う」と述べた。これは原子力規制委員会が10日に開いた会合で「敦賀2号機の建屋の直下に活断層がある可能性が高い」と指摘したのを受けたものだ。
規制委の田中俊一委員長も、敦賀について「社会的な関心が高く、専門家会議に早急に報告をまとめてもらい、委員会の判断を検討したい」と述べた。日本原電は「敦賀原発の下の断層は活断層ではない」という見解を出して調査を続行しているが、田中氏は「事業者は活断層がないという結論を出そうとしているので、彼らの調査の終結を待つ必要はない」と述べた。
このように日本原電の言い分も聞かないで、規制委が結論を急ぐのはなぜだろうか。日本原電は、規制委に対して敦賀原発についての質問状を出し、「科学的根拠を含めた十分な説明がなされたとは言えず、誠に理解に苦しむところであります」と批判し、国に対して10項目の説明を求めた。
東北電力の東通原発(青森県)についても、規制委は13日に断層の調査を行ない、島崎邦彦委員長代理は「活断層に関連したものだ」と述べた。政権末期になって駆け込み的に原発の断層調査が行なわれ、正式の結論前に委員長や委員長代理が「活断層だ」と述べるのは奇妙だ。エネルギー消費が増える真冬を前に再稼働の判断を急ぐというならわかるが、廃炉を急ぐ理由は何もない。
この背景には、総選挙で苦戦する民主党の事情がある。野田首相は選挙演説で、敦賀の活断層問題を「安全神話にもとづく政策をやめ、原発の安全規制を進めるなかでわかったことだ」と賞賛し、民主党政権の成果として強調した。現在の規制委は「脱原発」の強い世論を受けて民主党に選ばれたメンバーなので、自民党政権でその決定がくつがえされる前に廃炉にし、民主党の手柄にしようとしているのだろう。
しかし敦賀原発に違法性はない。敦賀1号機ができた1970年には、原発に国の耐震基準はなかった。1978年に「過去5万年以内に地盤が動いていないこと」という耐震指針ができ、1982年に着工した敦賀2号機はこの基準を満たしている。この指針が2006年に「過去12~3万年以内」と改められ、2010年に「活断層の上に重要施設は建設できない」と規定されたが、既存の発電所が耐震指針を満たさないことが判明した場合の規定はない。
このように安全基準が強化されたとき、古い施設をどうするかはむずかしい問題である。たとえば建築基準法では、1981年に耐震基準が強化されたが、それ以前に建てられた建物が違法になったわけではない。同じように新規に原発を建てるときは活断層の上には建てられないが、すでに建っている原発を政府が違法にすることはできない。野田首相が「事業者の判断で廃炉にすることになると思う」と言ったのはこのためだ。
原発については、新しい安全基準に合わせて古い施設を改良するバックフィットも義務づけることが検討されているが、これは例外的な措置だ。建設したときは適法だった発電所が、法律や安全基準が改正されると事後的に違法になって廃炉になるというのは、法律の遡及適用である。それが認められると、発電所建設のリスクが非常に大きくなって投資ができなくなる。
これは全国の原発の再稼働問題とも本質的に同じだ。政府は「規制委が新しい安全基準をつくるまで再稼働は認めない」というが、これは「建築基準法が改正されるときは古い基準の建物には住むな」というのと同じ遡及適用である。新しい耐震指針に合わない原発を廃炉にするのは「建築基準法が改正されたら古い建物は取り壊せ」というのに等しい。
「原発のリスクは特に大きいので、一般的な建築物とは同列に扱えない」という反論もあるが、原発を特別扱いするならそういう立法をすべきだ。バックフィットを行なって安全性を高めることは望ましいが、それを厳格に適用したら廃炉になる場合は慎重な判断が必要である。
日本原電の保有する敦賀1・2号機と東海2号機が廃炉になると、約2500億円の資産が失われ、同社は債務超過になると予想される。事業者に予見できない「事後法」によって政府が電力会社を経営破綻に追い込むことは、憲法に定める財産権の侵害である。その利害得失を冷静に考慮して次の政権が判断すべきであり、政権末期に駆け込みで決めることではない。
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