最新記事

銃規制

過去10年進展なし、子供が殺されてもアメリカの「銃の自由」は崩れない

An Intractable Problem

2022年5月30日(月)18時40分
ジュリア・カーボナロ
銃所持

一部の州は人目につく形で銃を持ち歩く「オープンキャリー」を認めている ERICH SCHLEGEL/GETTY IMAGES

<2012年のオバマ演説、今回のバイデン演説......。どれだけ悲劇が繰り返されたら、本格的な銃規制が法制化されるのか>

惨劇はまたも繰り返された。5月24日、米テキサス州ユバルディの小学校で起きた銃乱射で児童ら少なくとも21人が亡くなった。

どうすればこうした悲惨な事件を防げるのか。

この事件が思い出させたのは2012年にコネティカット州のサンディフック小学校で起きた悲劇だ。20歳の容疑者は母親を射殺して現場となった学校に向かい、児童ら26人を射殺。その後自ら命を絶った。

今回の事件でも容疑者は祖母を撃ってから学校に向かったと伝えられている。

サンディフックの銃撃犯、アダム・ランザは母親が合法的に購入した銃を犯行に使用した。報道によれば、今回の事件のサルバドール・ラモス容疑者は18歳になってから合法的に銃を購入したという。

サンディフック事件が起きたとき、当時のバラク・オバマ米大統領は「犠牲になったのは私たちの子供たちだ」と、国民に訴えた。

「今こそ政治的立場を超えてアメリカが一つになり、悲劇を防ぐ有効な措置を取らねばならない」

今回の事件を受けてジョー・バイデン米大統領はこう語った。

「われわれはいつになったら銃業界の圧力をはねのけるのか。なぜこうした虐殺を許しているのか」

ほぼ10年の歳月を経て2人の大統領がほとんど同じメッセージを放ったということは、この10年見るべき進展がなかったことを物語っている。

NPO「ガン・バイオレンス・アーカイブ」によると、この10年ほどの間にアメリカでは銃乱射事件が3500件以上発生。今年だけでも既に214件も起きている。

むごたらしい悲劇が起きるたびに、規制強化を求める声は高まる。

だが銃規制派が議会に法案を提出しても、そのたびに共和党多数派の頑強な抵抗に遭う。規制強化は個人の自由を制限するだけで銃の暴力を防ぐ効果はない──彼らはそう主張して譲らない。

銃が子供の主な死因に

サンディフック事件の翌年、民主党のジョー・マンチン上院議員と共和党のパトリック・トゥーミー上院議員が中心となり、全ての銃器の取引に購入者の身元調査を義務付ける超党派の法案を提出したが、上院で否決された。

2019年にテキサス州エルパソのウォルマートで銃乱射事件が起き、23人が死亡したときにも規制強化のうねりが高まった。このときは州当局も対策の必要性を認めたが、2021年に成立した州法はなんと州内の公共の場での拳銃の携帯に免許は不要とするものだった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米、月内の対インド通商交渉をキャンセル=関係筋

ワールド

イスラエル軍、ガザ南部への住民移動を準備中 避難設

ビジネス

ジャクソンホールでのFRB議長講演が焦点=今週の米

ワールド

北部戦線の一部でロシア軍押し戻す=ウクライナ軍
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 5
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 6
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 9
    40代は資格より自分のスキルを「リストラ」せよ――年…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中