最新記事

世界経済

現在の経済混乱は企業が続けてきた「ケチ経営」のツケ、事態はより悪化する

WINTER IS COMING

2021年11月26日(金)16時23分
キース・ジョンソン(フォーリン・ポリシー誌記者)
ガソリンスタンド

給油待ちの車が列を作るロンドンのガソリンスタンド(9月28日) HASAN ESENーANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES

<燃料高騰、供給混乱、インフレの加速──。「三つ子の危機」は低迷の時代の前触れなのか>

暗黒の時代が再来するのか――。パンデミックからの復活を切望する世界は、経済不安が渦巻く憂鬱な秋を迎えている。

世界規模で起きているエネルギー危機は、ほぼ全ての燃料に影響をもたらしている。配給制や停電が実施され、一部の店舗の棚は空っぽで、ガソリンスタンドには燃料がない。一方で、供給チェーンは息切れ状態だ。コンテナ港は大混雑し、貨物をさばき切れない。加えて、何年も鳴りを潜めていたインフレ懸念が再び頭をもたげている。

いいニュースもある。まだ、オイルショックが起きた1970年代ほどではない。

だが悪いニュースもある。今秋のエネルギー危機は物価が上昇し、消費者や企業が苦境に陥る将来の前触れにすぎないかもしれない。

原油価格はこの10月、1バレル=85ドルを突破し、7年ぶりに高値を更新した。天然ガスは特に欧州で高騰。今夏から倍増し、1年前と比べて4倍の値を付けている。石炭も急騰中で、中国で最高値更新が続く。

危機の根本的要因は、ロックダウン(都市封鎖)続きの1年間を経て急回復する需要と、今も復活していない供給体制の不一致だ。石油生産に向けた投資はパンデミック以前の水準を大幅に下回ったまま。当時でさえ、投資水準は2014年以前のブーム期に程遠いレベルだった。

あおりを食うのは消費者

アメリカのシェールオイル生産にも近年、変化が起きている。長らく低収益にあえぐ生産者は、おおむね厳しい財務規律を維持し、原油価格が上昇しても増産しようとしない。その結果、米石油生産はパンデミック以前を下回る水準が続く。

同様の力学は天然ガス生産にも作用している。欧州の主な供給元であるロシアはパイプラインを使い惜しみ、欧州向け追加供給が制限され、記録的高値が持続している。追い打ちをかけるように、異常気象で石炭生産が妨げられ、北欧の水力発電が打撃を受け、風力発電が減少し、天然ガス需要が急増した。

あおりを食うのは消費者と企業だ。多くの消費者が記録的な額の電力料金の支払いを迫られ、企業の中には操業短縮や従業員の一時解雇に踏み切るところも出てきた。

「今後、より大規模な構造的問題が出現する。いま起きているのはその予行演習だ」と、米エネルギーコンサルティング会社、ラピダン・エネルギーグループの創設者で社長のロバート・マクナリーは言う。「エネルギー市場の現状は、需要に供給が追い付かない事態の典型例だ」

原油や天然ガスが高騰する背景には数多くの短期的問題があり、それらは数カ月以内に軽減されるだろう。だが石油生産への過少投資が長引いたせいで、今も増え続ける需要が満たされないままになる恐れがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英利下げはまだ先、インフレ巡る悪材料なくても=ピル

ビジネス

ダイハツ社長、開発の早期再開目指す意向 再発防止前

ビジネス

ECB、利下げ前に物価目標到達を確信する必要=独連

ワールド

イスラエルがイラン攻撃なら状況一変、シオニスト政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親会社HYBEが監査、ミン・ヒジン代表の辞任を要求

  • 4

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 5

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 9

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中