最新記事

医療

コロナ禍で検診受けられず...各国でがん進行のケース増加

2021年11月8日(月)18時25分
松丸さとみ

がん検診を受けた人の数は、大幅に減った...... pixelfit-iStock

<検診が行えない状況が続いたせいで、いざ再開された今、がんのステージが進んだ状態で見つかる人が増えている>

アイルランドでは「がんの危機」

新型コロナウイルス感染症の流行拡大で、がんの検診から足が遠のいたり、検査自体が行われなくなったりなどで、やっと診断がついたときにはかなり進行した状態だった...という傾向が、世界各地で見られているようだ。

日刊紙アイリッシュ・タイムズは、「がんの危機」だと報じている。慈善事業団体アイルランドがん協会のアブリル・パワー最高経営責任者(CEO)がとあるイベントで、アイルランドの現状をこう表現したのだ。

同国では、新型コロナの感染拡大の影響により、がん検診自体を2020年3月から一時中断せざるを得なかった。子宮頸がんと大腸がんの検診は7~8月に再開されたが、乳がん検診の再開は10月まで待たなければならなかった。この3種類のがんだけでも、2020年に検診を受けた人の数は、前年比25万人減となった。

パワー氏によると、新型コロナが始まる前は、アイルランドでのがんの生存率が上昇していた。しかし検診が行えない状況が続いたせいで、いざ再開された今、がんのステージが進んだ状態で見つかる人が増えているという。

「がんは待ってくれない」

オーストラリアでも状況は同じだ。長期間にわたりロックダウンが行われたことにより、定期検診自体がしばらく実施できなかった。そのため、検査数そのものが減少した。

シドニー・モーニング・ヘラルドによると、2020年1~12月の間に行われたがんの検査数を、その前の3年間と比較したところ、減少数は16万4000件に達していた。特に、大腸がん、肝臓がん、肺がんで減少幅が大きかったという。結腸内視鏡検査やS状結腸鏡検査を含む大腸がん検診の実施数は13%減、肝臓がん検診12%減、肺がん検診9%減だった。

オーストラリアの政府機関キャンサー・オーストラリアのドロシー・キーフCEOはシドニー・モーニング・ヘラルドに対し、がん検診を受ける人が減ったことにより、がんにかかっていながら診断がついていない状態である人の数が、1~2万人に達している可能性もあると話した。キーフCEOはさらに、キャンサー・オーストラリアの発表文の中で、「がんは待ってくれない」と話し、早期発見の大切さを訴えている。

米国でも、がん検診の件数が減少したり、医師に相談するのもままならなかったりして、がんの発見が遅れるケースが増えている。米CNNは、体の不調を自覚してから実際に診断が下るまでに半年かかった看護師のアン・ラポートさんのケースを紹介している。

ラポートさんは、2020年の始めに体調の異変に気付いた。3月には疲労感や体の痛みがかなり強くなっていた。しかしちょうどその頃、新型コロナの感染拡大が始まったため、医療従事者であるラポートさんは、多忙のためのストレスかと思ったという。定期検診を受けられる状態になく、かかりつけ医に何度か診てもらう程度で、診断が下されない状態が続いた。8月に肺がんだと分かったときには、すでにステージ4になっていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ワールド

EU、Xに1.4億ドル制裁金 デジタル法違反

ビジネス

ユーロ圏第3四半期GDP、前期比+0.3%に上方修

ワールド

米、欧州主導のNATO防衛に2027年の期限設定=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 9
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 10
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中