最新記事

クジラ

3時間42分にわたって潜水するクジラが確認される

2020年9月29日(火)17時50分
松岡由希子

アカボウクジラ(赤坊鯨)は、クジラのなかで最も長く潜水する種...... Dr John A Horsfall-Stock

<これまで記録されていた時間を大幅に上回る222分(3時間42分)間、潜水し続けたアカボウクジラが確認された......>

アカボウクジラ(赤坊鯨)は、クジラのなかで最も長く潜水する種だ。2014年3月に発表された研究結果では、哺乳類として最長となる137.5分(2時間17分30秒)にわたって潜水した。そしてこのほど、この記録を大幅に上回る222分(3時間42分)間、潜水し続けたアカボウクジラが確認された。

How long can a beaked whale dive for?

アカボウクジラは体長6.7〜7メートル、重さ2〜3トンの中型のクジラで、円錐形の頭部とガチョウのような口吻が特徴だ。オスは下顎の先端に2本の歯があるが、メスには歯がない。深海に生息する魚類や頭足類などの餌を求め、最深2992メートルまで潜水することが知られている。

アカボウクジラが、3時間42分間、潜水し続けた

米デューク大学の研究チームは、個体識別用タグを装着したアカボウクジラ23頭がノースカロライナ州ハッテラス岬で2014年から2018年までの間、計3680回にわたって潜水したデータを分析し、2020年9月23日、その研究成果を学術雑誌「ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・バイオロジー」で発表した。

これによると、潜水時間は最短で33分未満、平均で59分であったが、77.7分を超えたものが全体の5%を占めた。なかでも、「TzTag066」のタグを付けたアカボウクジラは、2017年に約3時間潜水し、その1週間後、最長となる3時間42分間、潜水し続けた。

これまでアカボウクジラは33分間の潜水に耐えうる酸素貯蔵が可能だと考えられてきたが、今回の研究成果では、従来の推定を超え、体内に貯蔵した酸素が減少し、嫌気性代謝を用いるようになるまで、平均で約78分間、潜水できることがわかった。

潜水時間と回復に要する時間には関連がないことも明らかに

また、研究チームでは「潜水時間が長くなるほど、潜水による疲労の回復に時間がかかるのではないか」と考えていたが、潜水時間と回復に要する時間には関連がないことも明らかとなった。2時間の潜水で20分だけ休憩する個体もいれば、78分潜水した後、次の潜水まで、約4時間にわたって海面付近で少しもぐったり、海面から顔を出したりする個体もいた。

研究チームは、一連の分析結果をふまえ、「大量の酸素を体内に蓄積できることや、嫌気性代謝への切り替えに伴って筋肉で起こる乳酸の蓄積に耐える力が強いことと相まって、アカボウクジラの代謝は、非常に低い可能性がある」と考察している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ビジネス

再送米GDP、第1四半期+1.6%に鈍化 2年ぶり

ビジネス

ロイターネクスト:為替介入はまれな状況でのみ容認=

ビジネス

ECB、適時かつ小幅な利下げ必要=イタリア中銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中