最新記事

アイルランド

ブレグジットがアイルランド統一を後押し 市民投票の布石に

2019年5月23日(木)18時00分

5月21日、英国の欧州連合(EU)離脱を控え、アイルランド島では英領北アイルランドとEUに残るアイルランドの統一に向けた動きが少しずつ始まった。写真はダブリンの街中に掲げられた、マーク・ダーカン氏の選挙ポスター(2019年 ロイター/Graham Fahy)

英国の欧州連合(EU)離脱を控え、アイルランド島では英領北アイルランドとEUに残るアイルランドの統一に向けた動きが少しずつ始まった。北アイルランドは、統一の是非を問う市民投票へと一歩ずつ近づいている。

北アイルランドが英国を抜けてアイルランドと統一する可能性はまだ小さく、市民投票も近い将来には実施されないかもしれない。しかし英国のEU離脱(ブレグジット)計画に伴い、アイルランド島の政治の情景は変化しつつある。

アイルランドの2大政党である統一アイルランド党と共和党は共に、最終的なアイルランド統一を志向してきた。両党は今、国境を越えて北アイルランドへと政治ネットワークを広げることで、市民投票への布石を打っている。

与党の統一アイルランド党は今週の欧州議会選挙で、首都ダブリン選挙区の候補者に北アイルランドの統一支持政党、社会民主労働党(SDLP)のマーク・ダーカン元党首を擁するという異例の措置に打って出た。

ダーカン氏は「ブレグジットの流れで、統一を巡る議論が高まってきた」と語る。

2016年の英国民投票で、北アイルランド市民の約56%はEU残留を支持したにもかかわらず、英国と共に離脱する予定だ。

一方、約1世紀前に英国から独立し、1973年にEUに加盟したアイルランドはEUにとどまる。

北アイルランドの世論調査では長年、アイルランド統一への十分な支持が示されてこなかった。しかし政治家や政治アナリストによると、市民の心理を統一に向かわせそうな要因が徐々に増えている。

第1の要因は、ブレグジットに伴い北アイルランドとアイルランドの間に税関などの「目に見える国境」が再出現し、20年にわたり慎重に守られてきた和平が揺さぶられるリスクだ。

政治・経済状況も影響する。最近の企業調査では、失業率が過去最低に下がっているにもかかわらず、ブレグジットを巡る不透明感を一因として、北アイルランド経済は失速している。また1998年の和平合意によって発足した自治政府は、2年以上前に崩壊したままだ。

人口動態も世論を統一寄りに変化させる可能性がある。アイルランド統一を目指す政党の伝統的支持層であるカトリック系住民が、約30年以内に北アイルランドで過半数を占めそうだからだ。

98年の和平合意の規定では、有権者の過半数が統一アイルランドへの参加を望みそうな情勢となった場合、英国政府は北アイルランドの英国残留の是非を問う市民投票を命じるよう義務付けられている。だからこそ人口動態の変化は重要だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インフレに忍耐強く対応、年末まで利下げない可能性=

ワールド

NATO、ウクライナ防空強化に一段の取り組み=事務

ビジネス

米3月中古住宅販売、前月比4.3%減の419万戸 

ビジネス

米新規失業保険申請、21万2000件と横ばい 労働
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 4

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 5

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 6

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲…

  • 7

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 8

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 9

    インド政府による超法規的な「テロリスト」殺害がパ…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中