最新記事

火山

マグマの結晶の研究で噴火を予知する

2018年2月28日(水)17時30分
カスタリア・メドラノ

噴火予知は非常に難しいが、マグマの結晶の成長プロセスがヒントになる? Antonio Parrinello-REUTERS

<溶岩に含まれる小さな結晶には樹木の年輪のような層状構造があり、噴火に至るプロセスが記録されている>

近年、日本をはじめ世界各地で火山活動が活発化し、噴火が数多く起きている。火山噴火も地震と同様、予測が非常に難しい。今のところ火山性地震のモニタリングが噴火予知の最も確実な方法だが、百発百中とはいかない。

だが思いがけないところに早期警戒システム構築のカギが隠されているかもしれない。それは溶岩に含まれる小さな結晶だ。

火山の下の地下30キロの深さからマグマが上昇し始めるとき、マグマの中に「結晶の赤ちゃん」が生まれる。この結晶はマグマの上昇に伴って徐々に大きく成長し、化学組成も変化する。

豪クイーンズランド大学とアイルランドのダブリン大学トリニティ・カレッジの研究チームが合同で行った研究で、溶岩の中の結晶に、噴火に至るまでのプロセスが記録されていることが分かった。

チームが調べたのはヨーロッパで最も活発に活動している火山であるイタリア・シチリア島のエトナ山の溶岩。特殊なレーザー技術で結晶の内部をのぞいてみると、層状の構造が見られ、ちょうど樹木の年輪のように結晶の成長プロセスが記録されていることが分かった。この成長の層を詳細に解析することで噴火の引き金となった出来事と、その出来事が起きてから噴火が起きるまでの時間が分かる。

エトナ山の場合は、地下約10キロの深さに新しいマグマが供給されると、90%の確率で2週間以内に噴火が起きることが分かった。この解析結果をまとめた論文は学術誌ネイチャー・コミュニケーションズ1月号に掲載された。

「この場合、マグマが再供給される深さで火山性微動が観測されたら、噴火が差し迫っていることを告げる重大な前兆とみるべきだ」と、論文の執筆者の1人で両大学で研究を行う火山学者テレサ・ウビデはプレスリリースで述べている。

研究チームは今後、世界中の火山で同様の解析を行う予定だ。有史以降に噴火の記録がない火山でも、大昔の噴火でできた溶岩のサンプルを採取し、結晶に残された記録を読み解くことで、今後の噴火の可能性を予測できるかもしれない。

「着眼点が斬新だ」と、ウィスコンシン大学ミルウォーキー校の地質学者エリク・ガルブランソンはこの研究を高く評価する。「マグマの中に形成される結晶を超小型レコーダーとして利用することで、噴火のメカニズムについて理解が深まるだろう」

小さな結晶に人類の大きな希望が託されている。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米議会の対外支援法案可決、台湾総統が歓迎 中国反発

ワールド

ミャンマー反政府勢力、タイ国境の町から撤退 国軍が

ビジネス

インタビュー:円安の影響見極める局面、160円方向

ビジネス

中国ファーウェイ、自動運転ソフトの新ブランド発表
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 6

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 9

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 10

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中