最新記事

ロシア

北朝鮮を戦争に駆り立てるトランプに怯え始めたロシア

2018年2月1日(木)17時02分
トム・オコーナー

中朝両国と国境を接し、日本海に面した沿海地方で行われたロシア軍の演習(2017年10月) Russian Ministry of Defense

<アメリカが振り回す「最大限の圧力」は、北朝鮮を開戦に追いやりロシアの国家安全保障を脅かしかねない、と駐北朝鮮ロシア大使は言う>

北朝鮮に対する原油供給の全面禁止などアメリカが求める制裁強化策は、世界規模の紛争を引き起こす恐れがあると、駐北朝鮮ロシア大使が警告した。

ロシアのアレクサンドル・マツェゴラ大使は1月31日、ロシア国営メディアのインタビューで、核・ミサイル実験を繰り返す北朝鮮が国際社会で孤立し、アメリカ主導による「最大限の圧力」にさらされたことで、ロシアの国家安全保障が脅かされていると言った。

対北朝鮮政策でアメリカと対立するロシアと中国は昨年12月、北朝鮮に対する国連安保理の追加制裁決議に賛成したが、制裁が行き過ぎれば北朝鮮は宣戦布告とみなすだろうと、マツェゴラは言った。

「原油と石油精製品の輸出を止めることは北朝鮮にとって全面禁輸を意味する。そうなれば宣戦布告とみなし、あらゆる自衛的措置を取ると、北朝鮮の政府高官は繰り返し発言している」と、マツェゴラはロシア国営メディア、スプートニクに言った。

昨年12月の追加制裁により、北朝鮮への原油や石油精製品の輸出は1月から約90%削減された。老朽化したパイプラインを通じて中国から送られる54万トンの原油と、中国やロシアなどから供給される6万トンの石油精製品に制限される。人口2500万人の北朝鮮にとってそれは「微々たる量」でしかなく、北朝鮮の住民はすでにガソリンやディーゼル燃料の深刻な不足に苦しんでいることから、これ以上供給を減らすべきではない、とマツェゴラは言った。

北朝鮮との国境に中露軍?

国連安保理の追加制裁を、北朝鮮は「戦争行為」と非難している。アメリカは中国とロシアが制裁を無視して公海上で石油精製品を北朝鮮に密輸しているとして繰り返し批判しているが、中国とロシアは疑惑を否定している。

第二次大戦後にアメリカとソ連の対立が深まって朝鮮半島が分断された数年後、1950年から3年に及んだ朝鮮戦争で、ソ連と中国は共産主義国である北朝鮮を支援。韓国を支援したアメリカ中心の国連軍と戦った。休戦協定が締結した後も、ロシアと中国は長年にわたって北朝鮮を支援してきたが、北朝鮮が核兵器の開発に突き進み、昨年は大陸間弾道ミサイル(ICBM)とみられる実験を成功させてから北朝鮮から距離を置くようになった。

ロシアと中国はアメリカがアジア太平洋地域で影響力拡大を狙っているとみなし、アメリカの方が北朝鮮を挑発していると批判する。ロシア軍と中国軍は昨年から合同軍事演習を重ねてきた。米軍による北朝鮮侵攻を想定した動きだと、専門家は分析している。ドナルド・トランプ米大統領の北朝鮮に対する脅しが激しくなった昨年4月、朝鮮半島有事に備えてロシアと中国が北朝鮮との国境近くに軍を集結させている、と大きく報道されたが、ロシアも中国も否定した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英インフレ率目標の維持、労働市場の緩みが鍵=ハスケ

ワールド

ガザ病院敷地内から数百人の遺体、国連当局者「恐怖を

ワールド

ウクライナ、海外在住男性への領事サービス停止 徴兵

ワールド

スパイ容疑で極右政党議員スタッフ逮捕 独検察 中国
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中