最新記事

動物

シリアに売られるところだった子トラ3頭の悲惨な旅

2017年7月13日(木)19時09分
ジャック・ムーア

シリアに密輸される途中で保護された3頭の子トラの一頭 Animals Lebanon/FACEBOOK

<内戦中のシリアに密輸される途中で保護されたシベリアトラの子どもたちがフランスに新天地を見つけた>

内戦中のシリアに密輸される寸前だったシベリアトラの子ども3頭に、ヨーロッパでの新天地が見つかった。レバノンの動物保護NGO「アニマルズ・レバノン」が救出し、フランスの保護施設に移送した。

3頭は火曜にフランスに到着。新たな住みかはフランス南東部のリヨン近郊にある動物保護施設「トンガ受け入れの地」になると、AFP通信が伝えた。

今回の移送は、今年3月にレバノンの首都ベイルートの空港職員が、うじ虫が湧いた木箱に閉じ込められた3頭──メイ、アンタウン、タニヤ──を発見したのがきっかけだった。

当初、3頭はシリアの首都ダマスカスにある動物園に輸送されるはずだった。シリアのバシャル・アサド大統領が拠点にするダマスカスは、6年にわたる内戦でシリアの反政府勢力やジハーディスト(聖戦士)の絶え間ない攻撃にさらされている。

トラたちは3月にウクライナの動物園から飛行機でベイルートに到着した。アニマルズ・レバノンによれば輸送状況が劣悪で、狭い木箱のなかで尿や糞にまみれていたという。その後、裁判所の許可を得てアニマルズ・レバノンが3頭を預かっていた。

明らかな密輸事件

アニマルズ・レバノンは今週月曜、3頭に鎮静剤を投与してから、フランス行きの旅客機の貨物室に預けた。

「機体が離陸して、これで安心だと思うとやっと眠れた。あの子たちもやっと楽しい生活を送れる」と、アニマルズ・レバノンのジェイソン・ミエール事務局長はAFP通信に語る。

3頭をフランスに送り出すアニマルズ・レバノンの職員

「トラは明らかに密輸されたもので、救出も困難を極めた」とミエールは言う。シリアへの輸送を阻止した職員たちは(トラを高値で売ろうとした業者に)脅迫されたという。

「これまでに、これほど多くの脅迫を受けたことはなかった。昨夜は警官の警護付きで子トラたちと一緒に空港に向かった。あの子たちには、多額の費用をかけるだけの価値があるということだ」

3頭をベイルートに送ったウクライナの動物園は、やましい点はないと言う。「税関検査も通過した。税関申告書もある」と、園長のボロディーミル・トプチーは3月にAP通信に語っている。

だが子トラたちが入れられていた木箱には荷印がなく、取引の合法性を証明する書類も添付されていなかった。国際航空運送協会(IATA)の規制や野生動物の国際取引に関するワシントン条約にも違反していた。

シリア内戦の危険を逃れた子トラたちは、やっとフランスでジョワ・ド・ビーブル(生きる歓び)を味わうことができる。

(翻訳:河原里香)


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 6
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中