AV強要の実態に、胸を締めつけられ、そして驚かされる
Newsweek Japan
<アダルトビデオ業者の非道さと、一部の女性の無防備さ。『AV出演を強要された彼女たち』が明らかにする日本の性の貧しさ>
『AV出演を強要された彼女たち』(宮本節子著、ちくま新書)の著者は、「ポルノ被害と性暴力を考える会」世話人。女性や子どもに対するポルノ被害や性暴力を訴える社会活動に取り組んでいるのだという。そしてタイトルからわかるとおり、そのようなキャリアをもとに書かれた本書は「AV出演を強要された」女性に接して真実を探り、その実態を明らかにしたノンフィクションである。
私たちは、現在常勤換算の実働で約四・五人(ボランティアがたくさんいる)ほどが活動しており、(中略)二〇一六年八月末現在の累計で二一八件の相談に対応してきた。どの事例もそれぞれに異なり、誰一人としておろそかにはできない独自の問題を抱えている。(18ページより)
著者は実際に携わってきた5事例をベースとしながら、それぞれの経緯を紹介している。もちろん、AV女優として自己実現を図ったり自己充実を感じる女性がいたり、職業としてAV女優を自ら選んでいる女性たちがいることも認めたうえでのことだ。が、ここで紹介されているのは、あくまでもアダルトビデオに出演したことによって自分の生活や身体、精神が強く脅かされ、侵害されたと感じる女性たちである。
【参考記事】沖縄の風俗業界で働く少女たちに寄り添った記録
最初に登場する20歳の女子大生、Aさんの話がすでに重たい。モデルになることを夢見て、進学と同時に一人暮らしをしていた彼女の日常は、渋谷でスカウトマンに声をかけられたことから大きく狂いはじめるのだ。
目立って美しい容姿の彼女は、高校生のころからよくスカウトマンに声をかけられていた。そのため、当然ながら最初は拒絶。ところが、あまりにもしつこいので「話だけ聞いて断ればいい」と思って喫茶店について行った結果、話は終電間際まで続くことに。最終的には根負けし、早く逃れたいという思いから契約書に署名捺印してしまったというのである。
「そんなに簡単に?」と思われるかもしれない。が、終電間近まで自由を奪われたのでは、精神的に疲弊してしまっても無理はない。そしてこれは、何時間も拘束した挙句、商品を押し売りする詐欺のやり口ととても似ている。
ちなみにこの時点では、「モデル」の仕事をすることになるんだろうと思っていたのだそうだ。
しかし、深夜に帰宅してから「やはり断らなければいけない」と考える。ちなみに著者はこの決断について、「彼女の大きな間違いは、断る作業を一人でしようとしたことにある」と記している。
数日後、Aさんはプロダクションの事務所に電話を入れた。
「あのお話はお断りしたいです」
プロダクションはいとも簡単に言った。
「そうか! せっかくの話なのに断りたいの? 契約破棄に関してはもっといろいろ相談したいね。ついてはうちの事務所に来てくれないか。」
ちなみに契約破棄のために事務所にわざわざ本人が赴く必要はない。本人の意思を伝える手段は、メールでも手紙でもいくらでもある。
しかし、彼女は約束の日時にプロダクションに出かけていった。もちろん、契約を破棄するつもりで、だ。そして、もちろん、一人で行った。
プロダクションでは準備万端整っていた。
Aさんはそこで強姦されて、その映像を撮られた。この映像そのものがその後どのように扱われたか、Aさんは知らない。私たちにもわからない。確実に言えることは、強烈な脅しとして機能したということだ。
後日、"出演料"が彼女の口座に振り込まれた。(26~27ページより)