最新記事

軍事

銃で撃たれても「自動的に」治療してくれる防弾チョッキ

2017年1月24日(火)11時36分
サンディ・オング

Sgt. William Hester/U.S. Marine Corps

<負傷兵の救命率を上げるべく考案された斬新な防弾チョッキに注目が集まる> (写真は救急処置ができる防弾チョッキを考案した米海兵隊のマシュー・ロング伍長)

 戦場で傷を負った兵士にとって、生死を分けるカギとなるのはいかに早く治療を受けられるかだ。衛生兵や軍医はある時はその場で、またある時は最も近い医療施設に移送しながら、負傷兵に応急処置を施す。とはいえ、紛争地帯では状況は刻一刻と変化しており、必要な治療が迅速に受けられるとは限らない。

 それも近いうちに、過去の話になるかもしれない。米海兵隊第3整備大隊に所属するマシュー・ロング伍長が、救命用の医薬品を特殊な容器に入れて取り付けた防弾チョッキを考案したからだ。これがあれば弾丸が飛び交う戦場で負傷しても間髪を入れず「自動的に」応急処置を施すことができる。

 医薬品入りの小さな容器は、防弾チョッキのセラミック製の板の内側に複数装着される。弾丸が防弾チョッキを貫通すると衝撃などで容器が壊れ、止血剤や鎮痛剤が放出されて傷口に入る仕組みだ。

【参考記事】米軍の新兵器は「サイボーグ兵士」、DARPAが開発中

 イラクとアフガニスタンで戦闘により命を落とした4500人について分析した2013年の研究によれば、その90%は医療施設に到着する前に息を引き取っていた。死因の第1位は出血多量だった。つまり、この防弾チョッキによって負傷した兵士にすぐに止血剤を投与できれば、多くの命を救えるかもしれないのだ。

 もっとも英クランフィールド大学で防衛システム工学を教えるクリストファー・コールドリック講師は、このアイデアの「狙いは称賛に値する」が、「実用化にはかなりの困難を伴うだろう」と述べる。

 問題の1つが、容器から医薬品が放出されて傷口に入るまでの仕組みが大ざっぱな点だ。薬の量や薬が入る深さは、弾丸が容器のどの部分を破壊し、体のどこに当たるかに大きく左右され、調節することができない。

 また、銃創の痛み止めとしてはモルヒネがよく使われるが、複数の容器に穴が開いた場合にはこうした鎮痛剤の過剰投与が懸念される。

 その上、破片が体内に入る可能性があるため、容器は生物分解性の素材でなければならない。医薬品入り容器の装着で防弾チョッキの重量が増えることも問題だと、コールドリックは言う。

 これらの課題を解決するのは容易ではないだろう。だが米国防総省は技術革新に力を入れており、ロングのアイデアはその一環で海兵隊が主催した後方支援の新技術コンテストで入賞した。今後の開発には軍の支援が期待できる。

【参考記事】ロボットスーツ実用化で無敵の米軍に?

[2017年1月24日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 6
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 7
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 8
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中