最新記事

宗教

ローマ法王もたじろぐ「反キリスト」中国の教会弾圧

苛烈な迫害下にある中国人信者とバチカンを引き裂く政府転覆への警戒と「台湾断交」という選択

2015年10月14日(水)16時30分
楊海英(本誌コラムニスト)

「宗教はアヘン」? 天津のカトリック地下教会でミサを行う信者たち Kim Kyung-Hoon-REUTERS

 歴史的に見てみると、現実主義に生きる中国人と宗教との相性は悪い。「文明の発祥地の1つ」を自任する中国だが、キリスト教と仏教、イスラムといった三大宗教はいずれも中華圏以外に起源がある。中国にとって、どれも外来の文化・思想だ。そのためか、三大宗教の布教者たちは昔から東方の中国を目指して布教に努めてきたものの、歴代の王朝に弾圧されることが多かった。

 今日では世界最多の人口を抱える国家に成長した中国は、いずれの宗教も膨大な信者数を抱えるようになった。キリスト教も例外ではないが、中国共産党政権が建国直後から苛烈な弾圧政策を維持してきたので、「チャイニーズ・クリスチャン」の存在は国際問題と化している。

 中国のキリスト教徒の総数は1億3000万人に達するとの見方もあるが、政府系の研究機関は3000万人という控えめな数字を公開している。GDP成長率を水増しして「世界第2の経済大国」の座を死守しようと画策し、民族間紛争の犠牲者数や環境破壊の数値を過小に操作するのが得意な政府が言うところの信者数も信用できない。

 ひとまず当局の分類に従うと、3000万人中プロテスタントは約2500万人で、残りはカトリックだという。プロテスタント系の教会は「中国基督教三自愛国運動委員会(三自会)」に組織化されており、カトリック系の教会は「中国天主教愛国会」という社会団体にまとめられている。「三自」とは「自治、自養、自伝」の略で、「反動的な外国勢力から独立して自治し、聖職者を自ら養成し(経済的にも自力で教会を養う)、独自に伝道する」との意だ。

 宗派を問わない排外的な組織化はすべて建国直後に周恩来首相の主導で確立した政策。「キリスト教は欧米の帝国主義による中国侵略の先兵にして道具だった」との認識からの断罪だ。建国後、共産中国とバチカンは外交関係が断絶したまま今日に至る。

法王を阻む高いハードル

「新型大国間関係」を米中間で構築しようとしてワシントン入りした中国の習近平(シー・チンピン)国家主席だが、その存在はローマ法王(教皇)フランシスコの到来ですっかり色あせてしまった。習と法王の出会いを期待した中国のキリスト教徒は見事に裏切られた。法王の出身母体であるイエズス会は明朝の中国で布教し、ヨーロッパの科学技術を伝えた実績も広く知られている。

 フランシスコが法王に選出された直後には中国政府から祝電が届き、昨年の韓国訪問時に中国上空を通過した際は習に挨拶の打電をしていた。相思相愛と思われていたが、訪米時に接近は見られなかった。「中国に行きたい」と、法王はアメリカからの帰途に語ったそうだ。しかし、バチカンと中国が外交関係を結ぶには3つの高いハードルがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

SBI新生銀行、東京証券取引所への再上場を申請

ワールド

ルビオ米国務長官、中国の王外相ときょう会談へ 対面

ビジネス

英生産者物価、従来想定より大幅上昇か 統計局が数字

ワールド

トランプ氏、カナダに35%関税 他の大半の国は「一
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中