僕の北欧的「イクメン」奮闘記
スウェーデンに移り住んだアメリカ人筆者が、笑いと涙の育休生活を語る
Yuriko Nakao-Reuters
1年半近く、僕は毎日午前4時に起床した。眠りの浅い赤ん坊の息子が目を覚ますからだ。3時間後スウェーデン人の妻が仕事に出掛けると、もう1度朝食を作り、息子と4歳の娘を着替えさせ、保育園へ娘を送っていく。それから息子を連れて近所の公園へ行き、砂場で遊ぶ。子供用のおやつを入れたバッグを用意するのも、おむつを替えるのも僕の役目だった。
僕は失業中でも専業主夫でもない。「まとも」な仕事を持つ身だが、昨年12月から働いていないだけだ。スウェーデンに移住した僕が過去36カ月のうち、2人の子供の面倒を見るため育児休業を取った期間は計18カ月。もちろんその間も給料はもらっている。
スウェーデンの首都ストックホルムの街は約15年前からベビーカーを押す男たちであふれている。95年当時、子供1人当たり計480日間保障されている育児休業期間(男女を問わない)のうち、スウェーデンの父親は6%しか取得していなかった。その後、政府は480日間のうち30日を父親のみが取得できる育休期間とし、02年にはその期間を60日に延長(女性のみの期間も同様に60日)。08年に、男女双方が育休期間60日を超えて休業を取得したカップルに税還付の形で「ボーナス」を支給する制度も始めた。
今では父親の8割以上が育休を取り、その取得日数は全期間の約4分の1を占めるまでになっている。
3月の月曜日の午後にでも通りを歩けば、子供連れの男性にしょっちゅう出くわす。
ストックホルム郊外に住む僕の近所で、そうした男性の多くが目指す先は誰でも利用できる保育所だ。自治体が運営する施設にはコーヒーが用意され、アドバイスをくれる保育士もいるし、子供が遊ぶおもちゃもある。日によっては、おしゃれなTシャツにパンツ姿のクールなパパたちが床を占領している。部屋の隅には内気そうなお父さんがいるし、キッチンスペースではタトゥーを入れた男が1人か2人、わが子にご飯を食べさせている。
面白いのは、こうした父親たちはまるで母親のようだということ。話すのは子供のうんちや睡眠のこと、育児でどれほどくたくたか、子供がいつはいはいしたり歩き始めたかということばかりだ。
「娘さんはいくつ?」
「9カ月。昨日はいはいするようになったんです」
「うちの子は最近あまり寝てくれなくて。歯が生え始めました」
「育休はいつまで?」
「あと3カ月。この施設のおかげで助かる」
──といった具合だ。
男性が育児に励む「ダディーランド(父親の国)」とは、どたばたコメディーさながらの世界だろうと、以前は思い込んでいた。うんちまみれの父親、自動車オイルまみれの赤ん坊、無理やりサッカーの試合へ連れていかれて泣きわめく子供......。今ならこんな想像が僕のスウェーデン人の「同志」たちにとって、どれほど失礼だったかが分かる。
育休の申請に、上司の反応は「あ、そう」
僕と同世代かそれより若いスウェーデンの父親は、自信を持って子供の面倒を見られる男性になるよう育てられている。男も育児をして当たり前だと彼らは思っているし、彼らの妻やパートナーもそう思っている。僕はこの事実に驚愕し、拍子抜けした。
職場の環境も育児の現実に応じたものになっている。大半の企業は育休中の従業員の穴を埋めるため短期契約の臨時社員を雇う。この手法は本採用に向けた試験採用制度としても役立っているようだ。スウェーデン社会では、より根源的な変化も起きている。「男らしさ」という概念の変化だ。