最新記事

貿易

日本の輸出規制で半導体価格が上昇 日韓対立に市場は「前例なき急騰」警戒

2019年7月23日(火)10時50分

半導体のスポット価格が今年に入って初めて上昇している。写真は米メーカー製のチップ。フランクフルトで2015年7月撮影(2019年 ロイター/Kai Pfaffenbach)

半導体のスポット価格が今年に入って初めて上昇している。日韓両国の対立による日本の韓国向け半導体材料への輸出規制が長引けば、これまでにないような価格高騰や供給の混乱が生じかねないと懸念する声も、専門家から聞かれる。

半導体メモリの1つでデータの一時記憶に使うDRAMはこの1年余り、供給過剰と需要低迷で価格が低迷してきた。しかし日本が規制を発動して以降、1週間で15%も値上がりした。半導体製造の世界トップ2は、いずれも韓国勢のサムスン電子とSKハイニックスだ。

ほとんどのハイテク企業は中期または長期の契約で調達するため、DRAM市場全体におけるスポット市場の比率は10%弱にすぎない面はある。そのためアップルなどの大口顧客はまだ在庫積み上げにも動いていない。ある韓国の半導体メーカーの社員は、顧客は状況を注視しているものの、需要が依然弱いので様子見姿勢を保っている、と説明した。

それでも複数の業界関係者の話では、足元の価格上昇で日本の規制が近く供給に悪影響を及ぼすのではないかとの不安が高まり始めているようだ。バーンスタインのマーク・ニューマン氏は、日本の規制が続けば、DRAMの75%、NAND型フラッシュメモリの45%を占める韓国の生産が危機に陥るので「かつて見たことがないほどメモリ価格が跳ね上がるだろう」と予想する。

PCメーカーのVAIOの広報担当者は「輸出規制の影響が顕現化した場合、われわれは緊急対応計画が必要になる。選択肢には、韓国以外の供給元を探すことが含まれる」と述べた。現時点では事業に打撃は受けていないという。

ファウンドリー(半導体受託製造)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は、日本の輸出規制が第4・四半期の「最大の不確実要素」だと警鐘を鳴らした。

日本が韓国への輸出を規制しているのは、スマートフォンのディスプレーに用いる「フッ化ポリイミド」、半導体の洗浄に使う「フッ化水素」、半導体の基盤に塗る「フォトレジスト」の3品目。

韓国側の業界データによると、韓国は今年1─5月、フッ化ポリイミドの94%、フォトレジストの92%、フォトレジストの約44%をそれぞれ日本から調達してきた。韓国側は、規制に伴ってサプライチェーンの独立性向上を目指しているとしており、ロシアや中国からフッ化水素の輸入の新たなオファーも来ているという。

ただトレンドフォースは「一部(半導体)モジュールメーカーは規制を踏まえて(他の国からの)輸入枠を増やすか、そうでなければ生産停止を発表しつつある」と指摘した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ロイターネクスト:米第1四半期GDPは上方修正の可

ワールド

バイデン氏、半導体大手マイクロンへの補助金発表 最

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中