最新記事

徹底解剖 アマゾン・エフェクト

「アマゾン本体とAWSが表裏一体なのが最強の秘訣」田中道昭教授

INTERPRETING JEFFISM

2019年2月26日(火)10時45分
森田優介(本誌記者)

PATRICK T. FALLON-BLOOMBERG/GETTY IMAGES

<アマゾンの経営戦略に詳しい専門家に聞く、CEOジェフ・ベゾスの人物像と、最強企業の「EC+AWS」モデル。ベゾス経営とは何か。なぜアマゾンは強いのか。弱点はあるのか>

※2019年3月5日号(2月26日発売)は「徹底解剖 アマゾン・エフェクト」特集。アマゾン・エフェクト(アマゾン効果)とは、アマゾンが引き起こす市場の混乱と変革のこと。今も広がり続けるその脅威を撤退解剖する。ベゾス経営とは何か。次の「犠牲者」はどこか。この怪物企業の規制は現実的なのか。「サバイバー」企業はどんな戦略を取っているのか。最強企業を分析し、最強企業に学ぶ。

◇ ◇ ◇

「秘密主義」「謎めいた人物」──。

突如巻き起こった不倫騒動の前まで、ジェフ・ベゾスはメディアへの露出が少ないことで知られていた。プリンストン大学でコンピューター科学を専攻し、金融機関に就職。1994年にシアトルでアマゾン・ドットコムを創業した。その後の快進撃は衆目を集めるところだが、事業内容をほとんど公表せず、その人物像についても伝えらえるところは少ない。

ベゾスはどんな経営者なのか、アマゾンはなぜ「最強」のEC(電子商取引)企業なのか。立教大学ビジネスクールの田中道昭教授は、著書『アマゾンが描く2022年の世界』(PHP研究所)で同社のビジネスモデルと経営戦略を分析。2017年末の刊行から14刷、5万部と版を重ねている。本誌・森田優介が聞いた。

――ベゾスの発言は限られている。

確かに少ないが、アマゾン関連の著作はもとより、時折公開される動画は全て見ている。また、アニュアルレポートに添付される「株主への手紙」をベゾスが自らこだわって書いていることは有名で、それも参考になる。米アマゾンには「Day1」という公式ブログもあり、重要な情報の開示の際には本人のコメントも載る。

これらから分かるのは、昔からずっと、ほとんど同じことを言っているということ。「豊富な品ぞろえ、低価格、迅速な配達」。同じことを何度も言い続けており、アマゾン社内ではそれを冷やかして「ジェフイズム」と呼んでいるようだ。

――アマゾンの経営の中核となっているものは?

中核に据えているのは「顧客第一主義」で、ベゾスは「地球上で最も顧客第一主義の会社」になると述べている。ベゾス本人の定義によれば、顧客第一主義とは「聞く」「発明する」「パーソナライズする」の3点から成る。顧客の声に耳を傾け、それに応えるべく発明とイノベーションを行う。3つ目の要素の定義が絶妙で、put them at their own universe、つまり「顧客をその人の宇宙の中心に置く」ことがパーソナライゼーションだと言っている。

――創業当初からパーソナライゼーションを掲げている? 技術的に当時はまだ個々人に向けたカスタマイズはできなかったのではないか。

その意味では、今も本当の意味でパーソナライズできているわけではない。協調フィルタリング(そのユーザーと嗜好の似たユーザーの情報を用いて類推する技術)により、これを買っているあなたはこれも好きなはずだと、アルゴリズムで勧めているだけだ。ただ、最終的には真のパーソナライゼーションをやろうと考えているはずだ。

この顧客第一主義を徹底させているのが他社との違いではないか。ユーザー・エクスペリエンス(ユーザー体験)へのこだわりは絶対的に本物だ。

1月にCES(情報家電見本市のコンシューマー・エレクトロニクス・ショー)視察のため訪米したが、シアトルでアマゾンに勤める人に話を聞く機会があった。その人が言うには、顧客第一主義は末端まで浸透していて、それが一番の判断基準だという。相手が上司だろうが、顧客第一主義に反していると思ったら「それは顧客第一主義なのでしょうか」と反論することが奨励される社風だそうだ。

【関連記事】廃墟写真:アマゾン時代の「墓場」を歩く

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中