最新記事

政府債務

世界経済の上下が逆転する

ギリシャ危機は欧米が新興国に追い抜かれる時代の序章か

2010年6月16日(水)17時16分
ラーナ・フォルーハー(ビジネス担当)

 最近ヨーロッパでは失態が続いている。
 アイスランドの火山噴火に対する対応の不手際は、ネット上で冗談のネタにされた。「ヨーロッパより、(深刻な金融危機に見舞われ、他の欧州諸国の預金者の口座を一時凍結した)アイスランドへのメッセージ──ash(灰)じゃなくてcash(現金)を送れと言ったのに」という冗談は傑作だった。

 それはさておき、最悪の失態の1つはギリシャが自国を「新興市場」としてPRしようとしたことだ。ギリシャは4月、資金調達のための国債発行に際し、途上国並みの高い利回りを売り文句にする始末だった(当然リスクも高い)。

 文明の発祥地であるギリシャが名も知れぬ小国のように振る舞うとは、何とも嘆かわしい。今や貧困国に転落したギリシャは、IMF(国際通貨基金)とEU(欧州連合)による最大450億ユーロ(約5兆7100億円)の緊急融資を受けることになりそうだ。

 しかしヨーロッパにはギリシャの上を行く「劣等生」がいる。イタリアはギリシャの5倍の債務を抱えて、やはり破綻寸前。こんな事態を招いた主な原因は指導者の能力不足にある。財務相は景気回復のための一案として、外国にある隠し資産をイタリアで自己申告すれば罪に問わないと言い出した。マフィアが大喜びしそうな提案だ。

死語になった「第三世界」

 ドイツが近隣諸国の救済に嫌気が差して欧州単一通貨ユーロから離脱するのではないか──。モルガン・スタンレーをはじめとする金融機関では、そんな憶測が飛び交っている。

 アメリカとイギリスにとっても笑い事ではない。過去8年間、イギリスの債務は主要国では最も急速に膨れ上がっている。アメリカの状況も大差ない。どちらもこのまま状況が改善しなければ、最上級の格付けであるAAAを取り消される恐れがある。

 米シンクタンクの外交評議会によれば、アメリカは現在、世界最大の賭けをしているようなものだ。何しろ米政府はここ数年、かなりリスクの高い資産を抱え込んできた。例えば他の大国に比べて、価値が変動しやすい株式を大量に保有している。これに対して貧困国は「より安全」な米短期国債などを購入している(短期国債の57%を外国が保有)。

 途上国のほうが危ないという見方は、金融に関していえば消えつつある。ロバート・ゼーリック世界銀行総裁は4月14日、共産主義体制を指す「第二世界」という概念が89年に役割を終えたように、「第三世界」という概念も世界金融危機によって、お役御免になったと語った。

 今やメキシコやポーランドなどのほうがギリシャより信用格付けは上だ。金融危機を受けてIMFの融資財源は3倍の7500億ドルに拡大されたが、それでも中国の外貨準備高2兆4000億ドルに比べるとかすんでしまう。ブラジルやチリや韓国といった国々の経済は信用収縮の間もわずかに減速しただけで、再び急成長している。

 なぜ新興国がこれほど元気なのか。1つの理由は、これらの国々が80〜90年代の金融・債務危機から貴重な教訓を学んだこと。危機でダメージを負った国々は債務返済に努め、道路・鉄道建設や無線ブロードバンドの構築など有益な公共事業に優先的に資金を投じ、経済成長の加速を目指した。

16世紀の構造に逆戻り

 一方、アメリカではニューヨークの主要空港に向かう高速道路は老朽化し、携帯電話の電波は途切れがちだ。こんな状況では辺境の地かと思われても仕方がない。

 新興国の消費者は借金で首が回らなくなるどころか、ようやくお金を使い始めたばかりだ。日々のニュースがそれを裏付けている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

Azureとマイクロソフト365で障害、利用者数万

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で「的を絞った」攻撃 停戦履

ワールド

米、NATO東部地域から一部部隊撤退へ=ルーマニア

ビジネス

米キャタピラー、7─9月期は増収 AI投資受け発電
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理に押し上げた「2つの要因」、流れを変えたカーク「参政党演説」
  • 3
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 6
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 7
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 8
    怒れるトランプが息の根を止めようとしている、プー…
  • 9
    「ランナーズハイ」から覚めたイスラエルが直面する…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中