本誌が選ぶ10大ニュース
2009年最もお騒がせだったのは?
医療保険専門家として知られるチャールズ・グラスリー上院議員(共和党)は8月12日、アイオワ州での集会で次のように言った。下院の医療保険改革法案に盛り込まれている終末期医療のカウンセリングに「恐怖を感じるのは当然だ。終末期にカウンセリングなどすべきではない。老母の息の根を止めるかどうかを決める政府のプログラムなどあってはならない」。
実際には下院の法案は、終末期医療について高齢者が医師に相談する費用を公的医療制度のメディケアで負担するよう求めている。もしあなたが治療不可能な末期癌患者なら、万一心臓が止まったときに肋骨を折って激痛をもたらしかねない心臓マッサージをしてほしいだろうか。今の制度では、こうした相談の費用は基本的に自己負担しなければならない。
だが、メディケアが高齢者のためにカウンセリング費用を負担するアイデアは、フェースブックへのペイリンの書き込みによってまったく別の話に変わってしまった。人々は「役人の主観で患者の『社会における生産性』を判断し、医療を受ける価値があるかどうかを決めるオバマの『死の審査会』の前に立たされることになる」。
「死の審査会」という言葉の力と脅しが効果的なのは、アメリカ人が死を忌み嫌っているからでもある。彼らは死について考えたくもないと、ヘイスティングス医療倫理研究所所長で生命倫理学者のトム・マーレーは言う。この不快感の結果、死を想起させられると人々はパニックを起こし、生存の危機を前に理性が縮み上がる神経細胞の深奥に落ち込んでしまう。
経済危機で精神的な恐慌状態にあるときならなおさら、無防備だ。仕事や家を失いそうで医療費の支払いもままならないところへ、新たな恐怖を吹き込むのは簡単だ。
私たちは毎日「根拠なき不安」と共に過ごしていると、カリフォルニア大学サンフランシスコ医学校の神経精神科医ルアン・ブリゼンダインは言う。「脳は今、『危険』という信号を送っている。そういうとき、脳は論理的な思考能力をなくしてしまうのが常だ」
恐怖は、最も伝染しやすい感情でもある。グラスリー上院議員ほどの人物が「死の審査会」について警告するなら、どうしてそれが嘘だと決め付けられるだろう。
ネットにアクセスしても正しい知識が得られるとは限らない。改革がヘルスケア(医療)の配給制度につながるものだと信じ込ませようとする団体や政治家や一般人は数限りないし、まず例外なくウェブサイトやブログを持っている。
月面着陸はアメリカ政府のでっち上げだとか、オバマはケニア生まれだというデマがネット上では多くの支持を得ていることを考えれば、あなたがグーグル検索を通じて「オバマケア」に隠された陰謀の数々の「証拠」を見つけたとしても驚くには当たらない。
自分も恩恵を受けるのに
医療保険制度に関する他の嘘は、感情的反応を引き起こすこと請け合いのセックスや同性愛差別、保険加入者と無保険者の対立といった問題を利用するものだ。
いわく、新制度では納税者は性転換手術の費用も負担しなければならなくなる(どの法案にもそんなことは書いてない)。
いわく、不法滞在外国人の医療費も負担しなければならなくなる。いまウイルスのように感染を広げているある右派のウェブサイトによれば、「子供をつくるしか能がない役立たずの移民が5人も子供を産めるようになる」(不法滞在者の医療費は保障されない。救急医療は今でも保障されている)。













