コラム

狂信者が女性の人権を踏みにじる...「タリバン化」するテキサス州政府(パックン)

2021年09月14日(火)18時21分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
テキサス州の中絶禁止(風刺画)

©2021 ROGERS-ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<性犯罪や近親相姦の被害者であっても中絶禁止というテキサス州の新法で、アメリカの女性があり得ない人権侵害に苦しむことに>

狂信的な信者が女性たちの自由を奪い、人権を踏みにじる! 女性は Don't abandon us, America!(アメリカよ、見捨てないで!)と抗議する。いや、アフガニスタンなどではなく、アメリカのテキサス州の人工妊娠中絶の話だ。

米連邦最高裁は1973年、女性が中絶する権利は連邦憲法によって保障されていると判決を下した。それから中絶反対派の多い州は、「禁じること」ができない代わりに、さまざまな規制で女性やクリニックにとっての障害をつくり、中絶手術を「受けづらくすること」に挑戦してきた。

その極め付きが先日施行されたテキサス州の新法。妊娠6週目以降の中絶を禁じる内容だ。だが、実際には約85%の中絶は6週目以降に行われている。なぜなら、それ以前は妊娠の自覚がないことが多いから。どうしたらいいんだ? 知らないうちに妊娠することはあるが、妊娠していることを知らないうちに中絶するなんてあり得ない! しかも、レイプや近親相姦による妊娠の中絶も例外にはしないらしい。

また、異例にも新法は刑事法ではなく、民事法だ。つまり、検察ではなく、一般人が原告となって裁判を起こすことができる。被告となるのは、中絶した女性ではない。それを「幇助した人」、つまり医師、看護師、受付、運転手、カウンセラー、お金を貸してくれた人などなど。原告は1つの案件につき、複数の人を訴えて、勝訴したら被告1人ずつから1万ドル以上の賠償金と弁護費用をもらうことができる。

裁判好きなアメリカ人から見て、超おいしそうな法律だ。しかし、民事法は原則として被害者じゃないと原告になれない。残念......と思いきや、この法律はなんと、被害がなくても、女性や案件に全く関係がなくても、テキサス州に住んでいなくても、「誰でも」起訴できる! ラッキー!

いや、レイプ犯の子供でも産まされてしまう女性から見れば、全くアンラッキー。むしろ一種のテロだ。ちなみに、この法律の賛成派はコロナ対策のマスク着用やワクチン接種の義務化の反対派とだいたい一緒。個人の身体には口出ししない「小さな政府」をうたう保守派が多いから当然だ! 皮肉にも、中絶に関しては口を出したい放題だけど。子宮に入るほど小さな政府を目指しているのかな。

ポイント

SORRY, MA'AM...BUT IMPOSING DEMOCRACY ON OTHER CULTURES HAS BEEN A FAILED STRATEGY.
申し訳ない、異文化の人々に民主主義を根付かせる試みは失敗したんだ

BUT THIS IS TEXAS!
でもここテキサスよ!

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン大統領、マイクロンへの補助金発表へ 最大6

ワールド

米国務長官、上海市トップと会談 「公平な競争の場を

ビジネス

英バークレイズ、第1四半期は12%減益 トレーディ

ビジネス

ECB、賃金やサービスインフレを注視=シュナーベル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story