コラム

日本の改元に中国人も大騒ぎ

2019年08月03日(土)15時15分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

Chinese Regret and Envy / (c) 2019 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<いつも歴史を自慢する中国人だが、2000年以上続く日本の皇室と元号が羨ましい>

平成から令和へ。日本の改元で一番騒いだのはもちろん日本人だが、中国人も実はかなり大騒ぎした。

新元号の発表前、その予想が中国のSNS上でも話題になった。日本人は漢字の「和」が好きだし、永遠の平和を願う意味の元号がいい、という中国メディアの記事を読んで、次の元号がもし「永和」だったら困るね、とある中国人ユーザーが投稿した。「永和」は中国のどこでも見掛ける有名な飲食チェーン店で、看板メニューは「永和豆乳」。もし永和なら、中国人はいつも日本の元号を聞くたび豆乳を連想してしまう!

幸い、新元号は「永和」ではなく「令和」になったが、騒ぎは続いた。「令和」の日本語の発音はなんだ? とみんながSNSで好奇心から質問すると、すぐに「累娃(leiwa)だよ!累娃!」と、日本語に堪能な人が発音の当て字を教えた。「累」は疲れた、「娃」は子供の意味。発音の当て字で特に意味はないが、すぐにSNS上では菅義偉官房長官の新元号発表写真が加工されて、額縁に収められた文字が「累娃」に変わった。

中国人が日本の改元にこれほど大騒ぎしたのは、やはり中国が元号と漢字の発祥国だからだろう。ただし1911年の辛亥革命で、最後の元号「宣統」は大清帝国と共に滅亡。その後の中華民国で1912年は「民国元年」に変わった。これは台湾でまだ使われており、今年は民国108年。1949年に成立した中華人民共和国では西暦だけが使われている。

いつも歴史を自慢する中国人だが、2000年以上続く日本の皇室と元号が羨ましい。中国には日本の皇室のような「生きる歴史」もなく、元号の伝統を守り続けている国は自国ではなく日本。そして、元号の伝統や文化を捨てても、中央集権的な支配体制だけは1000年前とほとんど変わらないまま残している。全く隣国の日本と正反対だ。こうやって比べてみると、中国人は誰もひとことでは言い表せない気持ちになる。

その複雑な気持ちからこんな皮肉がネット上で生まれた。「実は今の中国にも元号がある。慶豊という元号だ。つまり、今の中国は慶豊時代なんだ」。慶豊は北京の肉まん店「慶豊包子鋪」のこと。この店で庶民にアピールするため肉まんを食べた習近平(シー・チンピン)国家主席に対する暗喩である。

【ポイント】
宣統

清朝最後の皇帝である愛新覚羅溥儀の時代(1909~1911年)に使われた元号。溥儀は1931年の満州事変後、日本軍部の力で満州国皇帝になった。

慶豊包子鋪
中国語簡体字の表記は「庆丰包子铺」。1948年創業の肉まんチェーン店。習近平が13年12月、北京の店舗を突然訪問し肉まんを食べたことが大ニュースになった。

<本誌2019年5月21日号掲載>

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プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

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