コラム

中間選挙で見えた、強気を装うトランプの脆弱な足元

2018年11月15日(木)15時40分

トランプが記者会見で冷静さを失った本当の理由は?(11月7日、ホワイトハウスで) Kevin Lamarque-REUTERS

<選挙には勝ったが、20年の再選と今後の生き残りに暗い影を落とす結果に>

今回のアメリカ中間選挙で明らかになった複雑な民意を単純に白か黒かで判定することは難しい。共和、民主両党は、あらゆる手段を使って自分たちの「勝利」を喧伝している。

民主党は10年以来となる下院の多数派奪回に沸いているが、共和党は上院の議席差をさらに広げ、民主党の攻勢を押しとどめたと主張する。

共和党はまた、ドナルド・トランプ大統領と民主党の前任者を比較して自分たちは健闘したと指摘する。ビル・クリントンとバラク・オバマはトランプよりも支持率が高かったが、1期目の中間選挙で上下両院の議席を2人合計で131減らす大敗を喫した。それに比べれば今回の共和党のほうがはるかにましというわけだ。

それを踏まえた上で、あえてシンプルに分析してみよう。トランプは選挙に勝った。だが、もっと長い目で見れば敗北に向かって進んでいる。

政治学者の常識的判断に従えば、今回の中間選挙はトランプに「ノー」を突き付けたと言えるだろう。失業率は過去50年間で最低、経済成長のペースは予想をかなり上回り、株価はトランプの大統領就任直後よりずっと高い――これだけの追い風が吹いていながら、下院で三十数議席も減らすことはあり得ない。普通の大統領なら支持率70%、与党は議会で圧倒的多数を握ってもおかしくないはずだ。

民主党は上院での敗北について、自分たちは改選数の関係で26人が再選を果たさなければ負けだったが、共和党は9議席を守るだけでよかったと主張する。つまり、もともと上院の勝利はほぼ不可能だったというわけだ。

だが、民主党は油断してはならない。トランプのやり方は無作法で支離滅裂だが、政治的パワーは健在だ。対決姿勢むき出しだった選挙後の奇妙な記者会見で、トランプは熱烈な自分の支持者ではなかった共和党議員の名前を挙げ、いずれも落選したと指摘した。数字の誇張はいつものことだが(多くのトランプ支持者も落選している)、確かに一理ある。

私は以前のコラムで、激戦の州知事選がトランプの命運を握っていると指摘した。

フロリダ、ジョージア両州知事選の民主党候補アンドリュー・ギラムとステイシー・エイブラムスは、直前の世論調査では優勢だったものの、選挙結果は熱烈なトランプ信奉者の共和党候補に僅差で及ばなかった(どちらも現時点で投票の再集計が行われる可能性は高いが)。

民主党が州レベルで躍進

常識的な見方では、2人の共和党候補はトランプの不人気ゆえに落選するはずだったが、実際にはトランプ自身の強力な応援が共和党支持者を投票所に向かわせ、2人を逆転に導いたと言えそうだ。

大きな関心を集めたテキサス州の上院選でも、共和党の現職テッド・クルーズが民主党のベト・オロークを振り切った。前回の大統領予備選でトランプと共和党の候補指名を争ったクルーズは、かつて妻や亡き父を侮辱されたこともあったが、今回はトランプの応援を歓迎した。

保守的な土地柄のテキサス州で現職の上院議員が議席を守ったことは、さして重要な勝利には見えないかもしれない。だが、オロークは民主党内で20年の大統領選出馬を強く推す声も出ている注目の若手政治家だ。ここでもトランプの応援が結果を左右した可能性は大いにある。

今回の中間選挙では、下院選の全米での総得票数は民主党が共和党より約10%多かったが、議席数ではそこまで大きな差がつかなかった。

その一因は、州レベルで権力を握っていた共和党が自分たちに有利なように選挙区の区割りを変更していたことにある。民主党は、オバマ政権の8年間で州議会と州知事職で権力を大幅に失っていた。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国シャオミ、初のEV販売台数が予想の3─5倍に=

ワールド

イスラエル北部の警報サイレンは誤作動、軍が発表

ワールド

イスファハン州内の核施設に被害なし=イラン国営テレ

ワールド

情報BOX:イランはどこまで核兵器製造に近づいたか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story