レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい
20世紀を代表する肖像写真家ユーサフ・カーシュが、イギリスのウィンストン・チャーチル首相と過ごした時間は、わずか2分間だった。
1941年12月、カーシュの前でポーズを取っていたチャーチルはいらだちはじめた。「敵であるドイツ人を見るように」カメラをにらんでいた、とカーシュは振り返る。だが彼はこの一瞬を逃さなかった。カーシュのカメラがチャーチルを通して、第二次大戦を「不屈の精神で最後まで戦う」イギリスをとらえた瞬間だった。
この一枚の写真が、14歳でトルコのアルメニア人虐殺からカナダに逃れ、1931年にオタワにスタジオを構えたカーシュの人生を変えることになる。
チャーチルのポートレートで国際的なセンセーションを巻き起こしたカーシュは、02年に他界するまでの60年間でオードリー・ヘプバーン、アルバート・アインシュタイン、マザー・テレサ、ロナルド・レーガン、ピカソ、ジョージア・オキーフ、ウォルト・ディズニーなど世界の著名人にカメラを向け続けた。
それらの肖像写真には、被写体が誰であれ、個々の本質が厳かに、そして美しく表現されている。カーシュの生誕から1世紀、巨匠が映し出した世界を振り返る。
[2009年1月28日号掲載]

