コラム

アメリカの戦争と格差を越える戦友たちの再会、『30年後の同窓会』

2018年06月07日(木)17時37分

『30年後の同窓会』 (C)2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC 

<30年振りに再会した3人のベトナム帰還兵。それぞれが別の道を歩んでいたが、イラク戦争で戦死した息子の遺体を連れ帰る旅に出ることで、3人の関係に化学反応が起きる...>

リチャード・リンクレイター監督の新作『30年後の同窓会』は、小説家/脚本家ダリル・ポニックサンが2005年に発表した小説『Last Flag Flying』の映画化だ。この原作は、ポニックサンが1970年に発表した処女作『The Last Detail』と繋がりがある。処女作は、ハル・アシュビー監督、ジャック・ニコルソン主演で映画化され、アメリカン・ニューシネマを代表する『さらば冬のかもめ』(73)になった。ポニックサンは、そんな処女作の続編として『Last Flag Flying』を書いた。

だが、『30年後の同窓会』は『さらば冬のかもめ』の続編というわけではない。ポニックサンとともに原作を脚色したリンクレイターは、3人の主人公の名前を変えている。だから、主人公たちのキャラクターやドラマの細部に接点は感じられるものの、全体としては独立した作品と見ることができる。

30年ぶりに再会した3人のベトナム帰還兵

物語は2003年12月、サルが経営する寂れた店「サルズ・バー&グリル」に馴染みのない客がふらりと立ち寄るところから始まる。その客は、サルがベトナムでともに戦ったドクであることがわかる。30年振りに再会したふたりは一晩飲み明かす。その翌朝、サルは、ドクの頼みで遠方にある教会へと車を走らせる。その教会で説教を行っていた神父は、彼らのベトナム時代の仲間ミューラーだった。荒くれで女たらしだった彼は、別人のように変貌を遂げていた。

その後、サルとドクはミューラーの家に招かれ、そこでドクが旧友を訪ねた目的が明かされる。ドクは1月に妻を病気で亡くし、2日前に、イラク戦争に従軍していた一人息子ラリーJr.がバグダッドで亡くなったという報せを受けていた。これから英雄としてアーリントン墓地に埋葬される息子の葬儀に臨むドクは、ふたりの旧友に一緒に来てほしいと頼み込む。

ドクの目的は判明するが、なぜ30年も音信不通だった旧友でなければならないのか。誰もが不思議に思うことだろう。しかし、ここで筆者が注目したいのは、ドクがどうやって旧友を見つけ出したかだ。彼は「簡単さ、今はネットで誰でも見つかる」と説明する。このドラマでは、それがひとつのポイントになる。なぜなら、別々の道を歩んできた彼らは、なんの心の準備もないまま、いきなり過去と向き合うことになるからだ。

別々の道を歩んで来た3人

リンクレイターがそんな状況を意識していることは、ドラマの細部から察することができる。

サルは、ドクが店に現れる前に、常連客に向かって「俺が心から恨んでるものは、大昔の自分の愚かさだ」と語る。それがなにを意味するのかは、旧友たちとの会話を通して次第に明らかになる。ドミノ理論を信じていた彼は、国のために再入隊し、頭には金属プレートが入っている。いまだ独身で、かろうじて店を営んでいるものの、酒びたりの生活を送っている。彼は国や軍に対する怒りを抱え込んでいるといえる。

プロフィール

大場正明

評論家。
1957年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒。「CDジャーナル」、「宝島」、「キネマ旬報」などに寄稿。「週刊朝日」の映画星取表を担当中。著書・編著書は『サバービアの憂鬱——アメリカン・ファミリーの光と影』(東京書籍)、『CineLesson15 アメリカ映画主義』(フィルムアート社)、『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)など。趣味は登山、温泉・霊場巡り、写真。
ホームページ/ブログは、“crisscross”“楽土慢遊”“Into the Wild 2.0”

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

G20、米利下げ観測後退で債務巡る議論に緊急性=ブ

ビジネス

米EVリビアンが約1%人員削減発表、需要低迷受け今

ビジネス

USスチール買収計画の審査、通常通り実施へ=米NE

ビジネス

企業の資金需要DIはプラス4、経済の安定推移などで
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story