コラム

コロナの余波「食品値上がり」──世界的な買いだめと売り惜しみの悪循環

2020年04月21日(火)12時00分

東京都内のスーパー(3月27日) Issei Kato-REUTERS


・コロナへの不安から買いだめが広がるなか、世界全体で食品の価格が上昇し始めている

・食糧輸出国のなかに輸出を制限する国が増えていることは、これに拍車をかけている

・この事態に不安を感じてこれまで以上に買いだめに走る消費者が増えれば、その先にはアリ地獄がある

コロナへの不安にかられて「そんなに本当に食べるのか」というくらい食品を買い込むことは、まわりまわって世界全体の食糧事情を悪化させかねない。

世界的な食品値上がりの予兆

東京都中央卸売市場では3月から4月にかけて、ハクサイやホウレン草などの値段が2.1倍上昇した。外出を自粛し、自宅で炊事する人が増えたからとみられる。

一方、入国規制の強化で、技能実習生をはじめ外国人労働者に頼る農家では人手不足も深刻だ。

緊急事態宣言が7都府県から全国に拡大したことで、この傾向は当面さらに強まるとみてよい。ただし、残念ながらこれすら入り口に過ぎない可能性もある。

食品価格は海外でも値上がりしていて、食糧自給率60%の日本は遅かれ早かれその影響を受けざるを得ないからだ。

例えば、中国では3月末の4日間で大豆の先物価格が5%上昇。中国は世界最大の大豆輸入国だ。また、ロックタウンが広がった4月上旬、アメリカでは小麦価格が8%、コメが25%上昇した。主要穀物の値上がりは、その他の食品にも波及しかねない。

買い占めが呼ぶ価格上昇

なぜ食品価格が世界的に値上がりするか。その背景としては、まず食品の買いだめがあげられる。

日本だけでなく、欧米でも3月頃からパニック買いが広がった。その結果、例えばアメリカでは3月、食品需要が40%増加したといわれる。

それだけでなく、食品関連企業などの一時閉鎖も深刻だ。米紙ニューヨーク・タイムズは従業員に感染者が出て一時閉鎖を余儀なくされた、アメリカ屈指の食肉メーカー、スミスフィールズ・フーズの経営者の「我が社の一時閉鎖はアメリカの食肉供給を致命的なほど危険に追いやるもの」というコメントを紹介している。

その結果、食品が手に入らない事態も発生している。コロナ感染者がアメリカに次いで多いイタリアでは、とりわけ所得水準の低い南部で食糧を買えない人が増え、3月末に政府は食品の割引券(バウチャー)の導入を発表している。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン大統領、マイクロンへの補助金発表へ 最大6

ワールド

米国務長官、上海市トップと会談 「公平な競争の場を

ビジネス

英バークレイズ、第1四半期は12%減益 トレーディ

ビジネス

ECB、賃金やサービスインフレを注視=シュナーベル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story