コラム

地方選挙から見るドイツ政治:ザールラント州議会選挙の結果

2017年03月29日(水)16時50分

ザールラント州議会選挙の勝利を祝うメルケル首相とクランプカレンバウアー州首相(CDU) Fabrizio Bensch-EUTERS

<9月に実施されるドイツ連邦議会選挙の行方を占う試金石として注目されてきたザールラント州議会選挙は、メルケル首相のキリスト教民主同盟(CDU)が勝利した。その背景は......>

ドイツ選挙の年 -- 2017年

ドイツでは2017年は3つの州議会選挙と4年に一度の国政選挙(連邦議会選挙)が実施され、2月には大統領選挙も実施されたので「選挙の年」と呼ばれる。フランスやルクセンブルクと国境を接するザールラント州の議会選挙が3月25日に実施させた。この選挙は9月24日に実施される連邦議会選挙の行方を展望するうえで最初の試金石となるとして注目されてきた。

1月末に社会民主党(SPD)が前欧州議会議長のマーティン・シュルツを首相候補として以来、SPDは一気に支持を回復し、メルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)がそれまでのリードを突如として失った。ザールラント州議会選挙はこの「シュルツ効果」を見極める最初の試金石でもあった。

【参考記事】シュルツSPD首相候補の登場はドイツを変えるか?3

ザールラント州議会選挙の結果

ザールラント州ではCDUとSPDが2012年以来大連立政権を組んできた。CDUが第一党として州首相を出している。国政においても、メルケル政権はCDUとSPDの大連立政権であり、同じ連立構成になっている。

今回の選挙では現職のクランプカレンバウアー州首相(CDU)とSPDのレーリンガー経済相が第一党を目指して争い、結果はクランプカレンバウアー州首相率いるCDUの勝利で、前回選挙より5.5%得票を増やした。シュルツ効果が期待されたSPDは前回より1%票を減らし、期待した成果は達成できなかった。

さらに興味深いのは、左派党も3.2%減、緑の党は1.0%減で5%を下回ってしまい、自由民主党(FDP)と同様に議会に一議席も獲得することができなかった。つまり、小政党はかろうじて左派党が議席を得たものの、有権者はCDUとSPDの二大政党間の政策議論にこれまでになく期待する結果となったのである。

ドイツ政治のみならず、多くの国でいわゆる国民政党と言われる大政党が支持を減らし、新たに誕生した小政党乱立になる傾向が見られてきたなかで、ドイツ政治はシュルツ効果もあって再び二大政党間の競争に回帰していることがこの選挙でも明らかである。

2016年に実施された5つの州議会選挙ではいずれも二桁の得票率を得て多数の議席を獲得し注目された極右ポピュリスト政党「ドイツの選択肢(AfD)」は6.2%と伸び悩んだ。国境を越えてフランスやルクセンブルクに通勤したり、買い物に行き来したりする住民もおり、ヨーロッパ統合の成果を実感することの多く、歴史的にもフランスとの関係が極めて深い地域であるというザールラントの特殊性も背景にあろう。

選挙結果を受けてクランプカレンバウアー州首相(CDU)は翌日から大連立の継続に向けてSPDに声をかけ、既にSPDもこれを受ける方向で進んでいる。

プロフィール

森井裕一

東京大学大学院総合文化研究科教授。群馬県生まれ。琉球大学講師、筑波大学講師などを経て2000年に東京大学大学院総合文化研究科助教授、2007年准教授。2015年から教授。専門はドイツ政治、EUの政治、国際政治学。主著に、『現代ドイツの外交と政治』(信山社、2008年)、『ドイツの歴史を知るための50章』(編著、明石書店、2016年)『ヨーロッパの政治経済・入門』(編著、有斐閣、2012年)『地域統合とグローバル秩序-ヨーロッパと日本・アジア』(編著、信山社、2010年)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中東情勢深く懸念、エスカレーションにつながる行動強

ワールド

ウクライナ中部にロシアミサイル攻撃、8人死亡 重要

ワールド

パキスタンで日本人乗った車に自爆攻撃、全員無事 警

ビジネス

英小売売上高、3月は前月比横ばい インフレ鈍化でも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story