コラム

EVから自動運転へ飛躍する中国の自動車産業

2021年11月11日(木)18時48分
北京汽車グループの自動運転車「極狐(Arcfox)アルファT」

ファーウェイの自動運転用頭脳を搭載した北京汽車グループの「極狐(Arcfox)アルファT」(4月19日、上海自動車ショー) Aly Song- REUTERS

<中国のEV販売台数はすでに日本の全自動車販売の6割程度に達するだけでなく、ファーウェイのような通信機器メーカーの参入で「知能ネット化」や標準化もどんどん進んでいる」>

中国の電気自動車(EV)産業が昨年後半以来すごい勢いで伸びている。

中国のEV販売台数は2014年の7万5000台から2018年の125万6000台まで快調に伸びたが、2019年後半に購入に対する補助金が打ち切られたことから、2019年は前年に比べて4%減少した。

なお、ここでいうEVとは、中国でいう「新エネルギー自動車」のことを指す。新エネルギー自動車には純電気自動車(BEV)プラグインハイブリッド車(PHEV)燃料電池自動車(FCV)が含まれる。最近では中国での新エネルギー車の販売台数のうち83%がBEV、17%がPHEV、FCVはわずかとなっている。

2020年前半は、コロナ禍もあって生産と販売がさらに落ち込んだが、購入補助金が復活したことで後半には急回復し、年間では136万7000台のEVが生産された。

2021年に入ると、いっそう生産と販売が伸び、1~9月は生産台数が216万台で前年同期に比べて2.85倍というすさまじい増え方である。この勢いで行くと、2021年1年間で300万台を突破しそうだ。

新車販売の5台に1台がEVに

2020年10月に制定された「新エネルギー自動車産業発展計画2021~2035年」では「2025年には、新車販売台数の20%前後をEVとする」ことが目標とされていた。2020年の新車販売に占めるEVの割合は5.4%だったので、遠い目標のように思えたが、2021年1~9月は11.6%、9月だけをとれば17.1%、と目標へぐんぐん近づいている。

年間300万台というと、日本の自動車販売台数が1年間で520万台(2019年)だから、中国のEV販売台数はざっと日本の全自動車販売台数の6割弱ぐらいの規模に達しているということになる。

自動車の生産には規模の経済性があり、一般には1工場で年間10万台以上組み立てる規模があれば効率的である。EVは一般の自動車よりもシンプルな構造なので、経済的な最小生産規模はもっと小さいであろう。だが、日本の場合、2019年にはBEV、PHEV、FCVを合計しても日本全体で販売台数が3万8585台しかなかった。これでは効率的な生産は難しく、製品価格が高くなってしまう。

一方、中国では2021年1~9月にトップだったBYDと2位の上汽GM五菱は生産台数が28万台、3位のテスラ中国は21万台と、一般の自動車メーカーに匹敵するような大量生産を行うEVメーカーが輩出している。こうなると、生産量が少ないことによる高コストというハンディはすっかり克服され、一般の自動車と対等に競争できるようになる。

2021年現在、1台あたり1.3~1.8万元(23~32万円)出ている補助金は22年には削減され、23年には撤廃される見通しである。その時もなお勢いを保てるかどうかはやや不安であるものの、さすがにここまで成長すると、もう補助金なしでも自立していけるのではないだろうか。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地

ビジネス

米国株から資金流出、過去2週間は22年末以来最大=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story