コラム

次期英首相最有力、ボリス・ジョンソンは国をぶっ壊しかねない問題児

2019年06月19日(水)20時30分

「上流階級なのに冗談が通じる」として労働者階級にも人気のジョンソンだが本心は見えにくい Hannah Mckay-REUTERS

<国王の血筋なのに風貌も言動も型破り。「合意なき離脱」も辞さないというジョンソンがイギリスの首相になって大丈夫なのか>

次にイギリスの首相になるのは誰か?

欧州連合(EU)からのイギリスの離脱(「ブレグジット」)がなかなか実現せず、国民の間に政治家への怒りと不満が充満する中、メディアが連日報道しているのは、与党・保守党の党首選だ。

6月7日にブレグジットの行き詰まり状態の責任を取る形でメイ首相が保守党党首を辞任。これを受けて、党首選が火ぶたを切った。保守党政権下、党首はイギリスの首相となる。

「我も我も」と多くの候補者が手を挙げたが、現在、最有力視されているのが前外相で離脱強硬派のボリス・ジョンソン(55歳)だ。

金髪のぼさぼさ頭の下には、眠そうな目。外相時代には失言の数々を発し、もし首相になったら、「崖っぷちから落ちるように」と評される「合意なき離脱」の現実味が増すと言われている。そんな危険な人物がなぜ人気なのか。

エリート・コースを歩んできた

ジョンソンは、1964年、ニューヨークで生まれた。母はアーティスト、父はのちに欧州議会議員になる。上・中流階級に属する富裕なイギリス人家庭で育った。

オスマン帝国(現在のトルコ)末期の内務大臣アリ・ケマルの子孫で、父方の先祖には18世紀の英国王ジョージ2世がいるというから、血筋的になかなかのものだ。

幼少の頃に一家でイギリスにもどり、つい最近までアメリカとイギリスの二重国籍を持っていた。

富裕な家庭の子女が歩むエリートコースをジョンソンも踏襲する。名門校イートンからオックスフォード大学に進学。2年後輩がデービッド・キャメロン元首相である。大学在学中はキャメロンとともに社交クラブ「ブリンドン・クラブ」に所属し、ドレスアップして乱痴気パーティーを楽しんだと言われている。

研修生としてタイムズ紙で働きだすが、ある記事でコメントを捏造し、解雇されてしまう。「フェイクジャーナリズムの先駆」と呼ばれるようになった。

保守党に近い「デイリー・テレグラフ」の記者となり、欧州特派員時代には欧州懐疑派論者として腕を振るった。

テレビ番組で認知度を高める

テレグラフの姉妹媒体となる政治週刊誌「スペクテーター」のコラムニスト、最後は編集長になっていくが、ジョンソンが国民的に広くその名を知られるようになったのは、1998年、BBCの政治番組「ハブ・アイ・ゴッタ・ニューズ」にゲスト出演してからだ。

「上流階級の出身」というだけで、イギリスの労働者階級からはそっぽを向かれてしまう傾向があるが、ジョンソンは番組の中で軽妙な受け答えやジョークの連発に徹し、「上流なのに偉ぶらない、冗談が通じる知的な人物」というキャラクターを作った。このキャラクターを買われて、次々とテレビの人気番組に出演した。

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

3月過去最大の資金流入、中国本土から香港・マカオ 

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、4月速報値は51.4に急上昇 

ビジネス

景気判断「緩やかに回復」据え置き、自動車で記述追加

ビジネス

英総合PMI、4月速報値は11カ月ぶり高水準 コス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story