コラム

安倍首相に韓国に学ぶ度量はあるか──国家緊急事態宣言の出口戦略

2020年04月27日(月)11時25分

距離を開けなければ死ぬが、距離を開け続ければ経済が死ぬ (新型コロナ流行の中、ロンドンの公園を散歩する高齢者) Toby Melville-REUTERS

[ロンドン発]新型コロナウイルスの大流行で都市封鎖(ロックダウン)している国々で経済活動を再開させるため解除を求める声が大きくなっている。流行がいったん収束したとしても、封鎖を緩和すると流行の第二波、第三波で被害が拡大するリスクは依然として高い。

英国は3月23日に外出禁止令を発動し、日々の死者数は頭打ちになったものの、累計では2万人を突破した。英国の感染症数理モデル・スペシャリスト、英インペリアル・カレッジ・ロンドンのニール・ファーガソン教授は英新興メディアUnHerdのインタビューで次のように釘を刺した。

「高齢者や持病のある人を社会から隔離しつつ、若者や健康な人の外出を認めて経済活動を再開させるとどうなるか。それで高齢者や持病のある人の感染リスクを80%減らしても年末までに10万人の死者が出る」

高齢者や持病のある人を感染から守ろうとしても、こうしたハイリスクグループは医師や看護師、介護士との濃厚接触が避けられない。隔離しても感染リスクは減らせないのだ。


英国ではボリス・ジョンソン首相とマット・ハンコック保健相が新型コロナウイルスに感染。ジョンソン首相は一時、重症化して集中治療室(ICU)に運び込まれ、100年に1度のパンデミック(世界的大流行)に加えて「権力の真空」まで生じる非常事態に陥った。

ジョンソン首相が4月27日から職務に復帰するのに伴って、都市封鎖の解除を求める声が与党・保守党内から強まってきた。保守党議員が、都市封鎖で行き詰まっている選挙区の中小・零細業者から「何とかしてくれ」と突き上げられているためだ。

死者2万人という数字には高齢者施設や自宅で亡くなったお年寄りは含まれていない。英国家統計局(ONS)によるそのデータを加えると、新型コロナウイルスによる死者は4割増しになる。外出禁止令の発動があと少しでも遅れていたらどれだけ被害が膨らんでいたのか考えるだけでゾッとする。

ファーガソン教授は一貫して、ワクチンができるまで安全な社会的距離を置く必要があると主張している。しかしスウェーデンのような自発的な社会的距離政策をとる国からは「悲観的過ぎる」と批判され、より大きな被害を予想する学者からは「楽観的」と指弾される。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ビジネス

再送-〔ロイターネクスト〕米第1四半期GDPは上方

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円以外で下落 第1四半期は低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story