コラム

レジ袋有料化はイギリス人の環境意識を覚醒させた

2020年07月08日(水)14時10分

少額でも料金がかかることでイギリス人の意識は変わった NEIL HALL-REUTERS

<5ペンスであろうと料金がかかることでエコバッグを持参する人が増えた、自分たちの行動が環境に及ぼすインパクトについて考えるきっかけにもなっている>

プラスチック問題にかけては、かなり先を行っていた友人がいる。ギリシャ神話の凶事の予言者カサンドラのごとく、彼は1990年代前半からこの問題を警告していた。彼は変わり者だと思われていた。一度など、ペットボトル飲料を買ったからといって付き合いたての彼女に説教したことがあった。幸先のいい交際スタートとは思えない。

僕は彼に影響を受けた。プラスチックが大きな環境問題であることを確信しているからこそ、彼はこんな面倒なことをするのだろうと考えた。でも多くの人と同じく僕も、プラスチックがそこまで悪いはずないとも思っていた。もしそんなに悪いものなら、こんなにあふれ返るのを政府が放っておくわけないじゃないか......。レジ袋もタダでくれるわけないだろうし......。それに結局、プラスチックはリサイクルされるんでしょ?

イングランドで2015年、レジ袋が少額ながら有料化されたことは、僕たちを自己満足状態からたたき起こした。スーパーでもらうレジ袋の数をちょっと少なめにしようなどという単純な削減策をはるかに超えた覚醒を促したのだ。

それでも僕は懐疑的だった。イギリス人は5ペンス(約7円)硬貨を落としても拾おうともしない人々だから、レジ袋に5ペンス払うのなんて何とも思わないだろう。でもどういうわけか、この施策は習慣を変えた。どんなにわずかであろうと料金がかかることによって、レジ袋を受け取らず、自分で袋を持参したり長く使えるエコバッグを買ったりする動機付けができたのだ。

そして、自分たちの行動を振り返るきっかけにもなった。僕たちは毎年何十億枚ものレジ袋を使い、その多くが海に行き着き海洋生物を脅かす。僕たちは、使用済みペットボトルが新しいペットボトルに生まれ変わってなどいないことを学んだ(浅はかにも僕は長年信じ続けていたのだが)。僕たちのプラスチックごみは船に乗って地球の反対側へ......現実にはリサイクルなどしていない国や、近年では受け取り拒否を鮮明にしている国へも運ばれているのだと知った。

それでもイギリスの人々は、時には1、2枚のレジ袋をもらって「罪悪税」を払うこともある。でも彼らはきまり悪そうで、袋を持参しなかったことを自己弁護している(「いつもなら持ってくるんだけどなあ!」)。誰からも責められないのだから、必ずしも同調圧力という訳ではない。むしろ人々は「理解」した上で強力したがっているようだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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