死期を早めた自民党の悪あがき
衆院解散は「そう遠くない」と、麻生太郎首相は言った。
だとしても、遅過ぎただろう。読売新聞は、今週から麻生降ろしが本格化すると報じている。自民党内の反麻生の動きは日々、勢いを増す一方。総裁選の前倒し実施を求める改革派は、最後にもう一回トップの顔をすげ替えさえすれば、過去3年間の改革後退を埋め合わせられると考えているようだ。
小泉純一郎元首相の忠実な部下だった武部勤元幹事長は、次期総裁候補に小池百合子元防衛相や舛添要一厚生労働相の名前を挙げて総裁選の前倒しを求めた。中川秀直元幹事長や棚橋泰文元科学技術担当相は、麻生の退陣を求めている。
だが反麻生の動きは、自民党の衰退を加速させ解散を早める以外、何の役にも立たないように見える。所詮、解散権という「核兵器」をもつのは首相のほうで、もしそれを行使されれば麻生降ろしの努力も水の泡だ。解散を目前に控えた今になって麻生を代えるのはバカげているし、解散と総選挙の間に代えるのは有権者の知性に対するさらなる侮辱だろう。
今指導者を代えるのは、国民にこう言うのと同じことだ。「小泉の後の総裁3人の失態は無視して、新しい○○総裁(○○には、好みの派手そうな名前を入れる)の下で明るい将来を目指しましょう」
党の役員人事をいじって総選挙の間に首相の横に並ぶ顔ぶれを変えようというのも同じく侮辱だ。だが麻生に残された権限は、解散権を除けば閣僚と党役員の人事権だけ。だとすれば、最後の手段を使って党の人事刷新を図るかもしれない。
■総選挙の顔は「舛添幹事長」?
山本一太参議院議員は、「舛添幹事長」の噂をほのめかす。言い換えれば、舛添を総選挙の責任者に据えて、自民党でもまだ人気のある数少ない政治家の一人として全国を回らせようということだ。
自民党がどれほど追い込まれているか、もはや言い表しようがない。民主党に一大スキャンダルでも起きないかぎり、自民党が勝てる見込みはなさそうだ。民主党にスキャンダルがあったとしても、接戦にもちこむのがやっとだろう。
改革派は党のためによかれと思いながらも結局は、自民党と麻生を運命共同体にしてしまった。彼らの麻生降ろしのおかげで、麻生は首相としても総裁としてもほとんど無力な指導者に見える。
麻生は、最後の権利を死守するつもりのようだ。産経新聞によれば、8月上旬に総選挙の線が濃厚のようだ。また自民党の大島理森国会対策委員長によれば、麻生は二者択一を迫られている。7月8日からイタリアで開かれる主要8カ国首脳会議(G8サミット)の前(そして7月12日の都議選の前)か、後かだ。
いずれにしろ、結果は大して変わるまい。麻生がイタリアをエンジョイできるかどうかを除いては。
[日本時間2009年06月28日(日)23時30分更新]
「麻生降ろし」は自民党崩壊劇の最終章だ
「政局より政策」を掲げてきた麻生政権だが、最近の状態は自民党内の政治的混乱という「伝染病」に感染しないよう必死になっている免疫不全の患者にそっくりだ。
もっとも、麻生政権が末期症状に陥った原因に、民主党はほとんど関与していない。むしろ、小沢一郎を長い間党首の座にとどめたことで、もう少しで自民党を復活させるところだった。
それでも今では、民主党は自民党が自滅するのを静観する以外にほとんど何もする必要がない。あとは総選挙の日程が争点になるよう、参議院での審議を迅速に進めれば、自民党の崩壊プロセスを後押しできる。
一方、麻生太郎首相は「麻生降ろし」につながる自民党総裁選の前倒しを実施するかという新たな難題に直面している。
9月に予定される総裁選の前倒しを求める署名活動をしている山本拓・衆議院議員によれば、党所属の国会議員のうち82人が署名し、26人が口頭で賛意を伝えてきたという。
■「麻生続投」で総選挙に突入か
新たな危機が発生するたびに、政府高官や自民党の重鎮が口を出す。今回も河村健夫官房長官は前倒し論を全面的に否定し、政府と党を弱体化させかねない動きだと非難した。
安倍晋三元首相も、この時期の首相交代は国民から「姑息な手段」に見られる(その通りだと思う)として首相を擁護した。舛添要一・厚生労働大臣は「党の判断」として、前倒しの可能性を否定しなかった。
一連の発言によって麻生首相の気持ちが変わることはないだろうが、一日ごとに、一言ごとに自民党はさらなる深みにはまっている。党を泥沼から引き上げようと党幹部がもがいても、党内の深い亀裂が一段と印象づけられるだけだ。
そして、麻生首相は相変わらず、心の平穏を得るために読書に走る(もっとも気分転換のための読書ではなさそうだが。麻生は6月21日に都内の書店を訪れ、祖父の足跡をたどった「吉田茂と昭和史」などを購入した)。
結局、麻生降ろしの動きは自民党にダメージを与えるだけで、麻生続投のまま総選挙に突入する可能性が高い。自民党は日本どころか、党内さえもコントロールできないというイメージはますます強まるだろう。
小池の空疎な先制攻撃論
元防衛相であり、自民党の次期総裁候補の1人にも挙げられる小池百合子が16日、党基地対策特別委員長を辞任した。
党政務調査会の国防部会がまとめた今年の「防衛大綱への提言」に、「予防的先制攻撃は行わない」という但し書きを加えられたことへの抗議だ。小池は日本が長年堅持してきた専守防衛の原則が防衛政策に縛りをかけている、と考えている。
小池の主張はもっともだが、もし日本が「敵基地」の攻撃能力を持つなら、その「価値」をはっきり示すべきだ。要するに、差し迫ったミサイル攻撃に直面した時、日本が使うかもしれない、もしくは使わないかもしれない攻撃能力にはどれだけの抑止力があるのか?
この論争には、中国の崔天凱(ツォイ・ティエンカイ)駐日大使の発言が影響しているかもしれない(過去にこのブログで触れた)。敵基地への攻撃能力を求める一方で、先制攻撃を除外するような文言がどの時点で提言に盛り込まれたかははっきりしない。確かに崔の発言は、「外国に誤解を与えてはいけない」と懸念する山崎拓のような議員を勇気づけた。しかし、同時に小池のように先制攻撃をできるよう準備すべきと考える強硬派の決意も強固にした。
■小池が「辞任」した本当の狙い
今回の辞任で小池は何を狙っているのか、という疑問も当然湧いてくる。麻生政権の終わりが見えてきたこの時期に、小池はあえて注目を集める議論の渦に自ら身を投じた。麻生支持の保守派が最重要視する防衛問題に関して小池が強硬姿勢を貫いているのは、麻生が総選挙前に首相の座から追われた場合、保守派の支持を取り付けたいからだろう。もちろん、私は小池の自分の信念に対する真摯さに疑問は差し挟まない。タイミングとやり方の問題だ。
これは小さいながら重要な一歩になるかもしれない。麻生が総選挙までもたなければ、保守派は対北朝鮮政策の継続のために小池が必要だと主張できる。安全保障はたいてい、自民党の選挙運動の最重要政策だ。仮に自民党が総選挙で大敗すれば、その責任を小池に負わせればいい(批判勢力が選挙前に麻生を退陣させられるかどうか私は懐疑的だが)。
その一方で、私は先制攻撃に関する議論が自民党内だけで突出していることに興味を引かれる。おかしなことに、「先制攻撃や北朝鮮の基地を攻撃できる能力を保有することをどう考えるか」という世論調査の設問を1つも見たことがない。この問題に関心をもち、優先すべき課題と捉える風潮はほとんどない。攻撃能力の増強でさらに防衛予算が必要になると調査対象者が知らされれば、なおさらだろう。それでも、なぜ先制攻撃に関する世論調査をしないのだろう?(もし私が見逃しているのなら、ぜひ教えてほしい)
小池をはじめ先制攻撃の提唱者が率直に論じていない疑問がもう1つある。日本は本当に北朝鮮の攻撃を阻止できるのか、という問題だ。時事通信はシンクタンクである国際危機グループの報告書を引用し、北朝鮮が移動式発射台に載せた約320基の中距離弾道ミサイル、ノドンを日本に向けて配置している可能性があると報じた。これまでの推定200基より大幅に増えている。
日本はこれらのミサイルを破壊するどころか、発見することもできないのではないか? 小池をはじめとする強硬派は、日本が先制攻撃を実現するために現実的にどれくらいの戦力が必要か、まじめに調べたことがあるのだろうか。先制攻撃と専守防衛についてまともな議論をするのなら、先制攻撃の提唱者たちは自衛隊がどんな戦力を保持すべきで、どれくらいの予算がかかるか明示すべきだ。
今のところ小池のような政治家たちのパフォーマンスから見えてくるのは、日本がいかに「真の国防」がない国か、いうことだけだ。
共通の敵に分断された米韓と日本
北朝鮮に対する先制攻撃力をもとうとする自民党の動きが、5月25日に北が核実験を強行してからさらに勢いを増している。麻生太郎首相は5月下旬に2度にわたり、自衛のための敵基地攻撃は1955年から法理上も可能だと語った。
そして米政府も、この議論に間接的に発言した。5月30日、シンガポールで開かれた国際会議でロバート・ゲーツ米国防長官は、東アジアの同盟国を守るアメリカの本気度を心配する日本と韓国の安全保障エリートに対して次のように言った。韓国も日本も自国と国境を越えた集団的安全保障の責任を負うまでになった。「従ってアメリカは、保護者ではなくパートナーになるよう立場を調整する。ただしそれは、同盟国としての責務のすべてを果たす用意と能力があるパートナーだ」
曖昧なメッセージだ。一方では同盟国の貢献を歓迎しながら、他方では、同盟国の守り手としてのアメリカの役割を強調している。米政府が日本国内の議論に直接口を出すことを控えているのはいいことだ。だが、アメリカには日本の変化を懸念する理由が十分あると思う。
■日本の防衛より大きな問題がある
北朝鮮に対するアメリカと日本の対応が違う理由の一つは、地理的近接性や拉致問題、国内事情などの他、米韓の同盟関係にあることはまちがいない。
日本は、北朝鮮政策をひたすら自国の国益の枠内で考えられる。隣りのならず者国家から国民の命と国土を守るのだ。
アメリカの北朝鮮政策は視野がより広い。アメリカは核物質拡散の脅威や、国際的な核拡散防止体制の維持にも腐心している。また日本の安全保障だけでなく、韓国の安全保障のことも考えなければならない。
米韓同盟と日米同盟の摩擦は、日米同盟の動揺のもとだ。韓国を防衛する法的な義務を追うアメリカは、軽々に北朝鮮を刺激するようなことはできない。実際、北朝鮮が通常兵力でソウルを襲ったときの被害を考えれば、米軍が北朝鮮を攻撃することはまずできない。そのために、アメリカの北朝鮮に関する発言も抑制的にならざるをえない。
国際政治ブログ「ザ・インタープリター」の編集長サム・ロッゲビーンが書いたように、ゲーツ国防長官のシンガポールでの演説が意味するのは、朝鮮半島非核化の難しさを踏まえた上の封じ込め策だという可能性もある。
米政府が、3月に北朝鮮が弾道ミサイルを発射する前、米領土を標的としたミサイル以外は迎撃しないと否定したことも思い出される。日本のエリートはこれを、日米安保があてにできない証拠と受け止めた。
そうかもしれない。だが本当は、アメリカが日本の防衛に本気でないというよりは、日本の防衛より大きな問題があると言ったほうがいいだろう。
■自国防衛で周辺諸国が焦土になる?
だからこそアメリカ(と韓国)は、日本が自前の先制攻撃能力を手に入れることを警戒すべきだ。韓国とはいかなる同盟関係もない日本には、北朝鮮と対決するにあたって韓国の安全を考慮しなければならない理由がない。もし北のミサイル発射が近いと察すれば、日本国土に対する直接の脅威という根拠だけで行動できる。日本が北朝鮮に対する先制攻撃を行えば、体制崩壊が怖いか攻撃源を特定できないなどの理由で北は韓国を攻撃し始めるかもしれない。
だが、日本はそんなことは考えない。地域の条約の制約を受けない日本は、新たな「攻撃的防衛」能力を行使でき、その過程でより広範な地域の危機を引き起こすだろう。それも、領土拡大の野望のためではなく、外敵に対してひたすら自国を守ろうとしただけで。
こんなシナリオはありそうにないかもしれない。自民党が検討している新防衛大綱に対する提言が本当にそのような先制攻撃能力をめざす計画を盛り込むかどうかもわからない。
■対北朝鮮政策では日本は引きこもり
だがどんなに可能性は低くても、韓国は日本との溝を埋めるための話し合いをするべきだ。そして北朝鮮の脅威について考えるときは、自国だけでなく周辺地域の安全保障も併せて考えるよう仕向けるのだ。言い換えれば韓国(とアメリカ)は、日本政府が拉致問題の解決を日本の対北朝鮮政策の中心に据えたことによるダメージを修復する必要がある。この決定により、日本は北朝鮮政策で自分だけの世界に引きこもってしまった。北朝鮮を自分だけのレンズを通して見て、他の国が北朝鮮を制御するのにどれだけ苦労しているかという視点にはほとんど注意を払わない。
アメリカと日本、韓国が5月30日にシンガポールで初の防衛相会談をもてたことには勇気づけられる。もし日本が独自の攻撃能力を手に入れたいなら、先制攻撃はもちろん、言葉による威嚇であってもそれが周辺諸国にどんな影響を与えるかを考えながら、責任ある使い方をしなければならない。
たとえ東アジアと公式の同盟関係がないとしても、地域の安全保障と安定は日本の国益だ。それを理解すれば、日本の指導者はこの地域の安定を保とうとするアメリカの努力、とくに韓国の防衛にもっと感謝するようになるだろう。そして、アメリカが自制しているからといって今ほど不安にならず、自前の攻撃能力の必要性も今ほど感じなくなるだろう。
イデオロギーの看板なき2大政党制へ
5月28日、民主党の前原誠司副代表はBSフジの番組に出演し、たとえ総選挙で負けても「民主党は絶対に割れない」と述べた。民主党はしばしば自民党並みに分裂していると批判される。だが今回の前原発言は、民主党の結束はそうした見方よりもずっと固いといういい証拠だし、何よりも総選挙後の政界再編はまずありえないことを示している。
われわれが今、目にしているのは二大政党制と呼ぶべき政治体制への進化の一部だ。エコノミスト誌のウェブサイト内のブログ「アメリカの民主主義」への投稿はこの点で示唆に富んでいる。
共和・民主両党がそれぞれ首尾一貫した統治哲学をもつことなどどうでもいいのでは問いかけながら、ブログの作者はこうつづっている。
アメリカの政治制度は長年、安定した2つの政党の独占を保証してきたようなものだ。だが両党の基本的なイデオロギー的枠組みが国民の政治に対する多様な見方を適切に体現していると考えるに足る理由はない。
両党の政策綱領にしても(中略)、時代とともに大きく変化している。イデオロギー的な内容に見せかけたものを全部取り去って、単に両党を「政党A」と「政党B」とでも呼ぶようにしたらどうだろう?
政党Aと政党B? まさに日本の政治システムを言い表すのにぴったりの表現ではないか。
■「政党B」として戦えば勝てる?
民主党はよく「自民党の亜流」だと批判される。だがこれは、自民党には比較対象とされるに足るしっかりしたアイデンティティがあることを示している。自民党は半世紀以上前の保守合同以来、イデオロギー的に異なる勢力の集合体であり続けてきた。多様な意見を受け入れている政党としては、世界一の成功例かもしれない。
自民党が支持を得てこられた理由は、現実主義の穏健派(言い換えれば利益誘導型)の議員の占める割合が、イデオロギーを重視する人々よりも高かったことだ。つまり他の政党よりもイデオロギー色が薄かったことが幸いした。
民主党にも自民党同様、一定数のイデオロギー重視派がいる。だが自民党がイデオロギー色の薄いいわば「政党A」であるのと同じように、民主党も「政党B」になることでさらなる支持を集められるかもしれない。
そうなればもちろん、自民党もA党であることをさらに有権者に売り込まなければならない。だからこそ、過去の選挙では両党とも「改革」を掲げて戦った(かつて自民と民主の候補者のポスターが並んで貼ってあるのを見たことがあるが、どちらのポスターにも改革への意気込みがうたわれていた)。
今回の選挙では、平均的な市民の不安をより敏感にキャッチできるのはどちらの党か、小泉改革のもたらした結果にどちらが強く異を唱えることができるか、どちらがより優しくて穏やかな改革案を出せるかが争点となるだろう。
自民党はジョージ・W・ブッシュの側近だったカール・ローブが04年の米大統領選で採った戦略を拝借するはずだ。つまり新型インフルエンザや北朝鮮の核実験といったものを材料に民主党のような実績のない未熟な党を信頼している場合ではないと示唆し、先の見えない世界への有権者の恐怖心に訴えるのだ。
北朝鮮の核実験のあとの26日、鳩山邦夫総務相は民主党の小沢一郎代表(当時)が2月、在日米軍の整理・縮小を進めて将来的に第七艦隊だけにすべきだと語ったことを引き合いに出し、民主党政権では「国は守れない」と発言した。総選挙までわれわれは、こうした前後の文脈を無視した形での小沢発言の引用を繰り返し聞かされることになるはずだ。
■不安だけでは攻めきれない時代へ
自民党幹部が小沢発言に繰り返し触れているということは、こうした非常時に民主党を選ぶことの危険性を訴ようとして訴えきれていないことを示しているのかもしれない。実際、民主党は自民党に対してほとんど攻撃材料を与えていない。
民主党は拉致被害者の救出には自民党と同じくらい熱心だし、中国政府との接触を図る一方で対中批判も行なっている。自前で防衛力を強化することや、北朝鮮への先制攻撃の可能性も排除していない。それでも自民党は、民主党に国防面では無責任で優柔不断で平和主義者だというレッテルを貼ろうとするだろう。
もし民主党政権への不安をあおるだけでは自民党の勝利はおぼつかないということになれば、そうした不安は最終的に実体を失うことになるだろう。そうなれば民主党にとっても「自民党ではない」というだけで政権交代を狙える時代は終わる。

