麻生失言とT・ルーズベルトの関係
結局のところ健全な国家は国民の男女が清廉で精力的で健全な生活を送ることで初めて成り立つ。男性は喜んで仕事に邁進し、労働に厭わず、自活し、家族を養う。女性は良き配偶者、良き主婦でなければならず、賢く勇敢な母親として沢山の健康な子供を育てる(セオドア・ルーズベルト、1899年4月10日の演説『奮闘的生活』より)。
またぞろ麻生太郎首相の失言が批判を受けているが、麻生が何を言わんとしていたか、そしてその発言が彼のどんな考え方を表しているかを考える価値はある。
7月25日に横浜で開かれた日本青年会議所(麻生自身が1978年に会頭を務めた組織だ)の会合で、麻生は65歳以上の高齢者の役割についてこう語った。「元気元気な高齢者をいかに使うか。この人たちは皆さんと違って、働くことしか才能がないと思ってください」
なぜこれが失言となるのだろう。働ける高齢者は働くべきだという信念を、麻生はこれまでも隠していない(おそらく「元気な」高齢者である自分自身の経験から出た言葉だ)。一貫性のある世界観に基づいた言葉なのだから、「言語能力に問題がある」首相の発言として、ほかの失言と同様に扱われるべきではない。
■T・ルーズベルトと日本の保守派の共通点
ここで冒頭のセオドア・ルーズベルトの引用に戻る。このスピーチは、奮闘する生活を提唱するルーズベルトの世界観──国際政治上のアメリカの立場と国力の根幹のあるべき姿──を最もよく言い表している。1898年にアメリカが米西戦争に勝利した翌年のスピーチなので当然のように「国内に縮こまらず」、陸・海軍力を強化するよう鼓舞している。
麻生の世界観、そして日本の保守派の世界観を良く知っている者として、麻生が高齢者に対して『奮闘的生活』を求めたと聞くと、ルーズベルトを思い起こさずにはいられない。両者が似ているのは偶然ではない。麻生や保守派は直接ルーズベルトの演説を引用してはいないが、その考え方はルーズベルトと同じく、社会進化論の香り漂う19世紀後半のロマン主義に根ざしている。
ルーズベルトが明治時代の日本の成功を高く評価していたことも偶然ではない(ここでほのめかしている)。その後、日本をアメリカ外交の脅威と見なすようになるが、国力を拡大するために勤勉さと闘争を強調したルーズベルトの考えは、明らかに現代の日本の保守派に蘇っている。
■怠惰な暮らしに慣れきった日本人
国民がもっと働けば日本はどんな問題でも解決できるという考え方は、首相就任後の麻生の発言に共通して表れている。特に就任当初、金融危機に直面した麻生は日本が先進国で最初に不況から脱出することを目指すと自信満々だった。
この知識階層同士の共通性に実はあまり意味はない。ルーズベルトのような積極的な考え方は、21世紀の日本ではまるっきり通用しないからだ。日本の大衆は、ルーズベルトが軽蔑する「偉大な成果を求める欲望や力の欠落が生む怠惰で平穏な生活」を甘受している。20世紀に経済発展のために奮闘した後、多くの日本人はいま完全に努力を他者に委ね、平和と繁栄の暮らしに満足しているように思えてならない。
[日本時間2009年07月27日(月)14時21分更新]
小泉の公約果たした「中川の乱」
腰くだけ 自ら公開した自民党両院議員懇談会で反省の弁を述べた麻生首相に、批判派も沈黙した(7月21日) Issei Kato-Reuters
通常なら、政権党の透明性を損なうような判断には反対だ。だが、衆院解散の直前に行う両院議員懇談会を非公開にすると決めたときの自民党の論理は理にかなっていた。公開したとしても、メディアは単に騒ぎを煽るだけで有権者には何ら有益な情報をもたらさなかっただろう。
中川秀直・元幹事長がそれでも公開せよと要求したのは、もはや自暴自棄という他ない。密室の話し合いでは、麻生降ろしは封じられてしまう。麻生の自己批判を国民の目にさらすことが、中川に残された最後のチャンスだった。
だが中川は、離党はしないと言っている。離党して新党を立ち上げたり民主党に合流するより(最近の中川の激しい民主党批判を考えれば無理だろう)、自民党を内部から改革するのだという。
もちろん、自民党が中川の改革に関心を払うかどうかは別問題だ。河村建夫官房長官は土曜日に出演したテレビ番組で、中川と武部勤幹事長がもし党とは違う独自のマニフェストを作るなら、離党すべきだと語った。他の自民党議員は、中川は自民党が07年の参院選で大敗したときの幹事長だったのだから自重すべきだと批判した。
中川批判の意味は理解できる。今や中川は、真摯な改革派というよりサボタージュ屋に見える。麻生降ろしに失敗し、党のマニフェストにも影響力を行使できなくなった今、もし自民党に残りたいというのが本心なら中川も従順にすべきだろう。
■もめる小池百合子と野田聖子
だが、もはや手遅れだ。中川は、自民党が日本を統治できるという、最初からあるかなしかだった幻想をぶち壊した。「自民党は政権担当能力を完全に失っている」と、民主党の菅直人代表代行は言う。民主党が投票日までこのメッセージを嫌というほど繰り返すことになるのは間違いない。
一方、反麻生勢力の足並みは乱れきっている。野田聖子と小池百合子は今や、新党を作るべきか否かだけでなく、新党立ち上げのために野田が小池を誘ったかどうかでもめている。
だが改革派は、過去3年の混乱のおかげで、小泉純一郎元首相の「自民党をぶっ壊す」使命をやり遂げたのかもしれない。毎日新聞の最新の世論調査によると、麻生の支持率は、鳩山由紀夫・民主党代表の28%に対してわずか11%。政党支持率では、民主党が自民党の倍の56%となっている。
中川の乱が過去のものになれば、もう少し接戦になるかもしれない。だが、鳩山が直接関わる大きな政治資金スキャンダルでもない限り、民主党は順調に勝利に向うだろう。次の関心は、果たしてどれだけ大勝するのかだ。
[日本時間2009年07月20日(月)13時26分更新]
自民改革派は離党するのか
臨戦態勢 都議選での自民大敗が分かった直後、麻生首相は解散・総選挙を決断した Kim Kyung-Hoon-Reuters
総選挙の日程を8月30日まで引き伸ばす麻生太郎首相の決断は、その日まで自民党内の政治方針をめぐる戦いが続くことを意味する。7月21日に解散した場合、8月18日の総選挙公示までには27日もある。現憲法下では過去最長の期間だ。これまでの最長は前回05年の総選挙のときの21日間だった。
そしてこの間、麻生と自民党も試練にさらされる。最初の試練は、民主党など野党陣営から衆議院に出された内閣不信任決議案と参議院に提出された首相問責決議案だ。野党側はおそらく自民党からの離党を考えている議員にその機会を与えたいと考えている。
都議選直後に麻生が解散を決断したことで、麻生は明らかに党内の「麻生降ろし」の動きを封じ込めた。彼ら改革派としては当然、麻生を退陣させて新総裁を選ぶ時間が欲しかったはずだ。14日には不信任決議案と問責決議案の採決もあり、改革派は麻生に対抗する決定的な行動をとれないだろう。
それでも麻生と自民党は、改革派の大量離党に直面するかもしれない。中川秀直議員は本当に離党する意志があるのか? 長崎幸太郎議員に続き、ほかの「小泉チルドレン」も無所属で立候補したほうが再選の可能性が高いと考えて離党するのか? そして渡辺善美議員と共に新党の立ち上げに加わるのか? 渡辺は自民党議員の離党組を受け入れるのだろうか?
■自民党は改革派を追い出さない
もし改革派が離党したら、自民党は改革派をつぶす「刺客」候補の指名を検討しなければならなくなる。民主党にとっては、無所属の元自民党改革派の候補を相手にするほうが、同じ候補が反麻生のまま自民党に残って戦うよりも手強い敵となる。
改革派が党の公約とは別に独自のマニフェストを打ち出しながら自民党に残って戦うのは可能だ。麻生の支持率は低いが、自民党を離れるより残るほうが利がある。選挙後の選択肢が増えることを考えれば、なおさらだ。
皮肉なものだ。改革派は4年前、何人かの保守派の議員を党から追放しようと攻撃した。そのときと違うのは、今回は自民党指導部は改革派を党から追い出そうとはしないだろうということだ。どれだけ改革派が反麻生を打ち出し、麻生の評判を落とそうとも......。
次の総選挙が自民党の終わりを告げるのだとしたら、これまた皮肉な話だ。戦後に政治思想がばらばらの保守派の各派閥が寄せ集まって結成された自民党。その初代総裁を務めた鳩山一郎の孫、鳩山由紀夫が民主党党首として首相の座に近づくことになる。
[日本時間2009年07月13日(月)17時42分更新]
政界に居場所を失う自民改革派
麻生太郎首相と自民党は総選挙の前哨戦と位置づけられた2つの地方選挙のうち、最初の静岡県知事選で大きくつまづいた。
当然のように、民主党は追い風を感じている。12日の東京都議選では民主党が第1党に躍進しそうな勢いだ。たとえば毎日新聞の世論調査では、民主党候補に投票すると回答した有権者が26%なのに対し、自民党は13%(公明党は6%、43%が態度未定)。ただ回答者の55%は都議選が麻生政権への審判であると考えており、このことは態度未定の43%が日曜日にだれに投票するか考えるヒントになるだろう。
民主党はいよいよ政権交代の時が来たと感じているはずだ。
瀬戸際に立たされた麻生は、「県知事選という地方選挙が国政に直接影響を与えることはない」とコメントした。日曜の都議選でも負けたら何と言い訳するのだろう。いったいいくつ地方選挙で敗北すれば、負けを認めるというのだろうか。たぶん麻生は都議選の敗北を、ラクイラ・サミット出席による不在のせいにするのだろう(彼の不在は自民党候補にとって好材料に思えるが)。
自民党支配が一歩一歩崩壊に向かっている。自民党内の改革派と保守派の休戦は短期間で終わった。中川秀直はテレビ番組で再び麻生の退陣を要求した。中川は退陣が「名誉ある決断」だと言うが、選挙直前に麻生を排除して新総裁を決めることのどこが「名誉」なのだろうか。
■民主大勝なら離党議員はいらなくなる
中川ら自民党改革派は、徐々に党内での自分たちの立場を認識し始めているようだ。党総裁をすげかえたところで、どのみち改革派の立場は極めて悪くなる。議席を失いそうな「小泉チルドレン」が多すぎるからだ(彼らは前回総選挙で辛勝したベテランの民主党候補と対決しなければならない)。
それでも改革派が党のマニフェストに関わって何とか自分たちの政策を反映させ、自民党がぎりぎりでも政権与党に残れれば、たとえ次期首相が改革派から出なかったとしても、マニフェストを盾に党幹部に対する影響力を残すことはできる。
だがそれより深刻なのは、万一総選挙後に離党という事態になった場合、改革派は何の交渉力もなく民主党の門を叩くことになる。総選挙で民主党が過半数を取れば、自民党の離党議員など必要ない。民主党入りを希望すれば拒否はしないだろうが、特別扱いもされないだろう(民主党内の前原グループが勢いづくことになるので、離党議員の受け入れに難色を示す議員も出るはずだ)。
従って改革派にとっては、総選挙で自民党が勝てるように動く方が政治的には理にかなっている。勝てないまでも、予想以上に健闘して民主党の過半数を阻止すれば、離党して民主党入りする場合の交渉は有利になる。
■声高に民主批判もできないジレンマ
自民党を変えようという改革派の信念は疑わないが、負けると分かっている戦いをあとどれだけ党内で続けることができるだろうか。民主党のマニフェストを、非現実的で「ほとんど犯罪に近い」と批判する与謝野馨のような議員とはいつまでも同じ党にはいられないだろう。もし改革派が民主党の批判を強めれば(中川は明らかに既にその方向に流れているが)、選挙後に自民党には残れないと分かっても民主党に移るのは難しくなる。
自民党を変えることが日本を変えることだ、という改革派の偽りの看板を降ろすときが来たと思う。おそらく小泉は順番を間違えていた。本当は、日本を変えることが自民党を変えることだったのだ。自民党がなしえなかった政治、経済、行政面の改革を実行するには別の政党(現時点では民主党)が必要なのかもしれない。そういった新たな政治状況に適応して初めて、自民党は変わることができる。
[日本時間2009年07月07日13時02分更新]
日本人「核の番人」のパラドクス
国際原子力機関(IAEA)のモハメド・エルバラダイ事務局長の後任人事がようやく決着した。当選者の出なかった3月の事務局長選挙に続く出直し選挙で当選したのは、日本の外交官である天野之弥(ゆきや)。必要とされる3分の2の得票をわずか1票上回って勝利した。
長い間こう着状態が続いたのは、先進国と発展途上国の論争のためだ。途上国が支持した南アフリカのアブドル・ミンティは、核拡散防止より現存の核保有国の核兵器削減を優先しようとした。一方の天野は先進国の代表と見られていた。
天野のイメージは、日本の核に対する矛盾した姿勢そのものだ。日本は唯一の被爆国として核問題の調停役を自認しているが、その唯一の被爆国は世界有数の核兵器保有国の「傘」で守られている(しかもその国は世界で唯一核兵器を使用した国である)。天野の選出の直前、元外務事務次官の村田良平が、アメリカの事前協議なしの核持込みを日本政府が認めた密約の存在を暴露したのは、なんとも皮肉なことだった。
村田は1960年の日米安保条約改定の際に結ばれたとされる密約に関する「1枚の文書」が、歴代次官に引き継がれてきたと証言した。非核三原則があるにもかかわらず、アメリカの軍艦が日本に核を持ち込んでいることは公然の秘密だったが、次官がこのように告白したのは初めてのことだ(村田が発言した後、匿名の歴代次官も先月共同通信に対して証言している)。
■非核3原則を非核2・5原則に
にもかかわらず、「核の矛盾」にふたをするかのように河村建夫官房長官は密約の存在を否定した。河村の否定発言に対して、河野太郎衆院外務委員長は政府の立場が証拠(そして常識)に矛盾していていると批判。今後、委員会で事実関係の調査を行うことを示唆した。
2国間の核問題を前進させるためには、過去の問題を明らかにすることが必要だ。日本政府は密約を公式なものとし、非核3原則を2・5原則に改定してはどうかという意見もある。その結果、核の傘は強化されるかもしれない(日本のエリート層のアメリカ不信が続くかもしれないが)。
天野がIAEA事務局長に選出されたため、その在任期間中に日本が核に対する姿勢を大きく変えることはないだろう。世界の核不拡散を推進するIAEAの顔役に日本人が選ばれたため、日本の核保有へ向けた議論は難しくなったように思える。だがその一方で、中国と北朝鮮は核兵器を増強している。
天野の当選は日本と核兵器の分裂病的関係を解決しない。世界の良心となることを熱望しながら、現実の防衛においては核抑止力に依存する矛盾は広がるかもしれない。
[日本時間2009年07月03日(金)14時38分更新]

