菅流「第3の道」カギは日米同盟?
遅ればせながら、日本にも「第3の道」がやって来た。「第3の道」とは、90年代に欧米の中道左派指導者が好んだ政治スタイル。新自由主義的な経済思想の台頭と財政の緊縮化という大きな潮流と、中道左派の福祉国家的な政治理念の折り合いをつけるために打ち出された政治路線だ。
ほかの先進国と異なり、これまで日本で「第3の道」が脚光を浴びることはなかった。しかし菅直人が首相に就任し、「第3の道」が日本で新しい命を得るかもしれない。
6月11日に国会で行った所信表明演説で、菅は日本経済を再建するために「第3の道」を歩む必要性を強調。具体的には、「強い経済」「強い財政」「強い社会保障」を同時に実現するための政策を実行する方針を示した。
菅は、小泉純一郎元首相以降の日本の歴代首相のなかでは最も雄弁に経済政策を語ったと言っていいだろう(少なくとも、鳩山由紀夫前首相流の曖昧で現実感の乏しいトリックはほとんどなかった)。しかし、菅の「第3の道」路線がどの程度成功するかは分からない。
日本に先立ってアメリカとイギリスでビル・クリントン元大統領とトニー・ブレア元首相が推し進めた「第3の道」路線は、いま考えればほとんど成果らしい成果を残せなかったように思える。むしろ、「カジノ資本主義」を後押しし、08年の金融危機の原因をつくってしまった感もある。金融危機により、クリントンとブレアが進めた社会保障の拡充はすっかり台なしになり、両国の財政赤字はますます広がった。
■財政赤字削減が最優先課題に
財政赤字削減、経済成長、社会保障の強化という3つの相容れない(と私には思える)目標を菅が追求すること自体は、愚かな判断だとは思わない。目下の政治環境では、政府は3つの目標にすべて取り組まざるを得ない。
しかし、菅はやがて、2つの目標を犠牲にして1つの目標を優先しなくてはならなくなる可能性が高い。その最優先課題とは、財政赤字の削減である。
問題は、財政赤字を削減すれば経済を成長の軌道に載せ、社会保障財源を確保できるのかという点だ。財政健全化のために消費税率を引き上げた場合に、日本の内需が拡大するとは考えにくい。個人消費を現在の水準に保つことさえ、難しいのではないか。
財政赤字の削減が有意義な目標であることに疑問の余地はないが、菅政権が経済政策に関する約束をすべて守るのは困難だろう。政府の無駄遣いの削減と税収の拡大を通じて、財政赤字を減らしつつ、経済成長を加速させるための公共支出を増やすことなど、本当にできるのか。
日本政府が財政赤字の削減に本腰を入れれば、外交・安全保障政策にも影響が及ぶと、私は考えている。しかしそれを論じる前に、菅政権の外交・安全保障政策のどこが新しいのかを正しく理解する必要がある。民主党の新しいマニフェストに盛り込まれた外交・安全保障政策を現実主義路線と見なす見方もあるが、実際のところはどうなのか。
日米関係の再建を重視し、中国に国防政策の透明化を求めていることを別にすれば、民主党は韓国、オーストラリア、インドとの2国間関係強化など、政権を獲得して以来実行してきたことを改めて主張している。そもそも鳩山前政権も、ワシントンで思われているほど、中国に弱腰だったわけではないし、日米同盟に背を向けていたわけでもなかった。
■新政権の対米政策は福田政権型
それに、菅のアメリカへの歩み寄りが大げさに評価され過ぎている面もある。日米同盟に対する菅の姿勢は、自民党政権の福田康夫元首相に近い。福田は共通の価値観に基く同盟関係というより、主にアジアに安定をもたらす手段として日米同盟を位置付けていた。菅も福田と同様、近隣の国々、とりわけ中国との間に建設的で安定した関係を築くことが不可欠と考え、日本のアジア政策推進の一手段として日米同盟に価値を認めている。
それでも、菅政権が日本外交の柱の1つとして対米関係を強化するつもりでいることは明らかだ。5月末の日米の「普天間」合意を尊重する姿勢をはっきり打ち出しているのはその表れと言っていいだろう。
ここにきて民主党が日米同盟重視を打ち出し始めたのは、もしかすると財政再建重視の方針の一環なのではないかと私は思っている。アジア情勢が不安定ななかで歳出を減らす以上、さしあたりアメリカの抑止力に依存せざるを得ないと、民主党の幹部たちが次第に思い始めたのかもしれない。
民主党政権は、国内でも国外でもさまざまな目標を同時に追求しなくてはならない。しかも、そうした目標は互いに相容れない場合もある。
この難しい任務を成し遂げるためには、政府が柔軟に状況に対処できる体制が不可欠だ。その点が分かっているからこそ、小沢一郎をはじめとする一部の政治家はかねてより、内閣主導のイギリス型の政治モデルの導入を目指してきたのだ。もっとも、たとえそのような政治体制を確立できたとしても成功の保証がないくらい、菅政権は困難な課題に直面している。
[日本時間2010年6月17日13時57分更新]
「非小沢内閣」発足で帰ってきた民主党

Yuriko Nakao-Reuters
菅直人内閣が発足した。先週予想した通り、多くの閣僚(11人)は再任だ。鳩山・小沢体制から新しい民主党内閣への移行ぶりを観察して政治アナリストのマイケル・キューセックは、菅首相の下、「もともとの民主党が帰ってきた」と結論付けた。05年のいわゆる郵政選挙で小泉純一郎に大敗し、小沢一郎の力を頼るようになる前の民主党のことだ。
私もキューセックと同じ意見だ。小沢前幹事長に菅が「しばらく静かにしているように」と言ったり、選対委員長に起用された安住純が複数区に複数候補を擁立する小沢戦略を見直す意向を示すなどの慌しい動きは、小沢と距離を置こうとする民主党の変化のほんの始まりに過ぎない。
何より、菅が強調する「草の根」政治や草の根をベースとした「奇兵隊内閣」は、長いこと自由民主党の権力基盤だったのと同じ利益団体に擦り寄る小沢の政治とは極めて対照的だ。
「もともとの」民主党が帰ってきたとき、政策決定過程はどう変わるのか。
■政調会長が入閣する意味
おそらく最大の変化は、小沢時代に進んだ幹事長室への権力集中を改めることだ。鳩山政権下で廃止された政策調査会(政調)を復活させたのが象徴的だ。
だが新しい政調は、自民党の旧来型の政調とは似ても似つかぬものになるはずだ。第1に菅は、官僚主導脱却のための「政官の接触制限」は堅持する意向のようだ。
第2に、政調会長に就任した玄葉光一郎は公務員制度改革相も兼務することになった。新しい政調は政府が目指す「政策決定の内閣一元化」を脅威にさらすようなものではないと玄葉も語っている。むしろ、内閣と党が互いに意思疎通を図るための交流の場になるのだという。
政調会長が閣僚を兼務するのは初めての試みだが、これによって玄葉が政調会長の立場を利用して政府に楯突くのは難しくなる。内閣の一員として、政府がいったん決めた政策はこれを守る義務を負うからだ。
さらに菅政権は、枝野幸男新幹事長をも政府の傍に引き付けておこうとするだろう。枝野は文字通り、首相官邸内にオフィスを構えることになるかもしれない。新しい幹事長は、小沢のように自立した戦略家ではなく、首相の政治顧問のような存在になるだろう。そして枝野自身の言葉を借りれば、有権者に対し政府の決定を弁護する務めを果たさなければならなくなる。
■「菅システム」のカギは小沢
鳩山政権は、与党内に異論を唱える人が少なくなった代わりに約1名が首相と同等かそれ以上の拒否権を発揮する政府だった。それが菅の下では、与党内の議論はもっと喧しくなるかもしれないが、首相が最大の権限をもち、有権者に対する唯一の顔でもあり、党幹部に対しても指導力を発揮できる政府に変わるだろう。政策決定過程に関わる人数は増えても、菅は、誰が政府の最高責任者かを周囲に徹底させることをためらわないだろう。
もちろん、この「非小沢システム」の存続は、小沢自身がこれを受け容れるかどうかにかかっている。役職から解放された小沢がその気になれば、支持者を集めて派閥を作ることもできる。菅政権の運営は困難になるだろう。小沢が自ら干渉を自粛してくれるのでなければ、新政権はいずれ小沢と妥協しなければならなくなる。
そうだとしても、菅は内閣が政治の実権をもつイギリス式議会制民主主義の実現を目指し続けるのではないか。党執行部は、小沢に近い議員グループにいくつかの譲歩を行ったかもしれない。だが目標はあくまで、官僚と一般議員の力を抑え首相と内閣の権限を強化することに他ならない。
[日本時間2010年06月09日04時05分更新]
菅首相に新内閣は必要ない

Issei Kato-Reuters-Reuters
菅直人・副総理兼財務相が6月4日、新しい民主党の代表に選ばれ、新首相に指名された。日本の各メディアは、新しい内閣と党役員の顔ぶれを予測している。仙谷由人国家戦略担当相は小沢一郎幹事長の後任候補の筆頭に、野田佳彦財務副大臣は菅の後任の財務相候補の筆頭にあげられている。
しかし私は、菅が鳩山内閣のメンバーをほとんど変えないのではないかと見ている。民主党はとりわけ、閣僚の任用には継続性が重要だと強調してきた(これには首相職も含まれるが、そこでは失敗した)。
この原則以上に、菅にとって新しい内閣が本当に必要なのか、という疑問を感じずにはいられない。民主党内の各グループや政治的立場を代表する有力者をうまく内閣に配置したことは、鳩山の1つの成果だ。閣僚以下の副大臣や大臣政務官レベルで多少の人事はあるかもしれないが、民主党はあくまで大臣と副大臣、政務官の協力を重視している。
郵政・金融担当相の亀井静香をはじめとする鳩山内閣の閣僚が、鳩山の首相生命を短くしたことは間違いないが、鳩山は内閣が原因で失敗したのではない。鳩山が内閣改造をしていたとしても、それで状況が好転したとは思えない。そして閣僚を劇的に入れ替えることで、菅政権がうまく行くともまた思えない。
[日本時間2010年06月04日12時00分更新]
社民離脱、運命の選挙力学

Yuriko Nakao-Reuters
5月28日、社民党党首の福島瑞穂・消費者担当相は、米軍普天間飛行場の沖縄県内移設をめぐる鳩山由紀夫首相の決定を最後まで拒否した。このため首相は福島を罷免せざるを得なかった。30日、社民党は予想どおり連立政権から離脱することを決めた。
それでも参議院選挙に向けた民主党との協力は可能だと社民党は示唆している。しかし、そもそも「反企業、反日米同盟」を標榜する同党が、生き残るために民主党と協力することが得策なのかどうか、疑問の声も上がっている。
選挙の力学からすると、衆議院で308議席(うち小選挙区221議席)を持つ民主党は、できるだけ多くの選挙区を制するために中道路線に近付いていくことになる。もし民主党と自民党が互いに似通っていくとすれば(自民党が存続するとして)、それは無党派層が左右する政治システムの中で、少しでも多くの浮動票を取り込むために中道寄りに動く必要が生じるからだ。互いを区別するために言葉やジェスチャーで取り繕うことになるだろう。
社民党は、まったく異なる状況に置かれている。衆議院ではわずか7議席(比例区4、小選挙区3)しかない。小選挙区3議席のうち1議席は沖縄2区選出の照屋寛徳だ。少数政党が生き残るためには、ごく限られた中心的(コア)な支持者に対してユニークな「何か」を提供するしかない。社民党にとってコアな支持者とは、在日米軍の削減を求め、憲法改正を拒み、不平等の拡大に抵抗するといった左派イデオロギーの信奉者たちだ。
■94年の「裏切り」は繰り返せない
理屈の上では民主党と社民党の間に協力の余地があるように見える。だが実際には、民主党にとって妥協が不可欠であるのに対し、社民党の生き残りは党の原則と公約をかたくなに守ることに掛かっている。
自民党が今のような体たらくに陥っていなければ、民主・社民の連立は「便利な敵」に共同で抵抗するためにもう少し維持できたかもしれない。だが連立の選挙力学からすると、この組み合わせは最初から無理があったように思える。
選挙力学は社民党の歴史によってかき乱された。94年、当時の社会党は自民党と連立政権を組むために、日米同盟と自衛隊に関する自党の原則を破るという、いわば自傷行為に走った。そんな選択をしたのは、選挙制度改革前に既に少数イデオロギー政党になりつつあったことを認識していなかったからかもしれない。
このように日米同盟をめぐってコアな支持者を1度裏切っているため、福島が今回取った行動と異なる行動を取る可能性は極めて低かった。
福島が鳩山首相の妥協を拒否せざるを得なかったのは、端的に言えば社民党の過去・現在・未来のためだ。同党の未来はそれでも危うい。連立から離脱したままでの選挙協力がどちらの党を利するかはまだ分からない。だが原則を堅持した社民党のほうが支持基盤を維持するのは容易だろう。
[日本時間2010年5月31日02時44分更新]
普天間で「転向」した鳩山の功績

Toru Hanai-Reuters
私の予想より数カ月遅かったが、鳩山政権はついに米軍普天間飛行場の移設先を06年の日米合意案に戻すことを受け入れた。ヒラリー・クリントン米国務長官来日後の22日、日米両政府は名護市辺野古のキャンプ・シュワブ沿岸部に滑走路を建設することで大筋合意した。
今回の2国間合意は06年の計画をほぼ再確認する内容だ。正確な建設地や建設方法などの詳細は今秋のバラク・オバマ米大統領の来日時につめると見られている。
それでも決着とは程遠い。沖縄の強い反発に加え、連立する社民党も政府案に強く反対している。加えてやっかいなのは、県外移設を強く主張していた小沢一郎幹事長が合意案に反発する可能性があることだろう。
鳩山政権の「回れ右」を批判したくもなる。だが、当初から政府は06年合意案の再検討も含め、あらゆる選択肢を残して話し合うと繰り返し強調してきた。以前にも述べたが、鳩山政権は誠意を持って対応していた。06年合意を見直すことで、より良い解決策を見つけたいと心から願っていたはずだ。
■参院選前に最優先課題から外せた
鳩山政権のごく控えめな提案に米政府がここまで厳しい対応をとったりせず、もっと早く日本側に譲歩の余地があるというシグナルを送っていれば、ここまで大きな問題に発展することもなく、何ヶ月も前に解決していたかもしれない。だが問題解決が長引いたことで沖縄県民に集団で反対行動を起こす時間を与え、06年合意の微修正版に国民の理解を得ることはかなりむずかしくなった。
鳩山政権が06年合意に当初から決して否定的ではなく、鳩山個人が総合的に見て06年合意が最善の策だと信じるようになった可能性も否定できない。慎重な言い回しをする鳩山だから、彼の本音を推し量るのは容易ではない。だが議論が長引けば長引くほど、鳩山は地域安全保障や抑止力の文脈で米軍基地について語るようになった。
政権は既にダメージを受けている。世論を分断した普天間移設問題のせいというよりは、政府の問題解決能力の欠如が最大の原因だ。国民は、鳩山政権が何カ月もドタバタ劇を続けたあげく白旗を揚げた、と見るかもしれない。7月の参院選の前に普天間問題を最優先課題から外し、ほかの問題に集中する(そして国民の注意も向けさせる)ことができるのが、鳩山政権にとってのせめてもの救いだ。
日米同盟はどうなるのだろうか。全ての当事者が納得する案を検討するために時間がほしいと要求した鳩山の態度が、同盟にダメージを与えると米政府は警告した。だが日米同盟は悲観論者が考えるより強固なようだ。中国海軍の活動の活発化や、北朝鮮による韓国哨戒艦沈没事件のお陰だと言えなくもない。
■日米同盟をめぐる議論への一歩
鳩山政権内の一部には、日米同盟から日中の連携に軸足を移す考えを支持する者もいるが、現実離れした提案に過ぎなかった。ところが普天間問題によって、そうした考えもより現実味を帯び始めたように見える。
アメリカの政府関係者や評論家は鳩山の要求に過剰反応していた。イギリスに新たな連立政権が誕生し、デービッド・キャメロン首相とニック・クレッグ副首相がそろって英米の「特別な関係」についての疑問を口にしても、アメリカ政府が大騒ぎしなかったことを考えればなおさらだ。彼らの言っていることは、日本の民主党の主張とそんなに違いはない。
イギリスと日本の違いは、イギリスはアメリカとEUの間で「バランシング」をしているのに過ぎないのに対し、日本はアメリカと中国の間で、どちらへ「舵を切る」か決めねばならない、という点にある。もちろんアメリカ政府にとって、イギリスとEUの接近より日本と中国の連携のほうがずっと心配のタネだ。だがそういった違いを考慮しても、鳩山への反応は過剰すぎた。
アメリカにけんかを吹っかける一方で、中国とは建設的な関係を維持しようとする----そんなアジアの同盟国は鳩山政権が初めてではないし、これで最後でもない。アメリカ政府がこのことを理解することは、アメリカとその同盟国の双方に有益だ。
今回の合意は、民主党がバランスの取れたアジア中心の外交方針を放棄することを意味するものではない。その外交方針において日米同盟は重要だがすべてではない。中国のみならず、民主党がアジアの国々とより強固な2国間関係を築くうえで、日米同盟はどうあるべきか。普天間の「決断」は、この議論を始めるために必要不可欠な最初の一歩だった。
[日本時間2010年5月23日午後12時43分更新]

