阿南 現在の中国近現代政治研究の分野では、中国で起きている「大どんでん返し」とどう向き合うかが大きな論点となっています。
長らく日本の中国政治研究では、毛沢東の個人独裁から集団指導体制を経て、険しい道を経ながらもやがて民主化に向かうという大前提がありました。これはアカデミアに限らず、70年以降の日中・日米関係もこの前提の上に築かれてきました。
ところが昨年の党大会で、習近平は権力行使にかけられていた様々な制度的な安全装置を全部取っ払ってしまいました。1つ目に集団指導体制、2つ目は定年制、そして最後に1期5年、最大2期までという任期制です。
野嶋 まさに習近平政権下における中国の変質は、ジャーナリズムにも影響を与えています。私がかつて籍を置いた朝日新聞は日中友好の神輿を担いで成長した新聞です。しかし、2010年頃には、これではいかんと路線変更しています。
しかし、世の中はそうは見てくれず、朝日新聞は今も親中という言説で叩かれ続け、現在の朝日新聞の部数減にも相当の影響を与えているはずです。
岡本 その習近平による「大どんでん返し」を、どう捉えたらいいのでしょうか。
阿南 毛沢東時代には権力行使が恣意的に乱用され、文化大革命という悲劇を生みました。その経験から「民主化はできないけれど、せめて一定程度権力行使を制度化しよう」ということで改革開放が始まりました。
ところが約40年かけて定着させてきた制度的安全装置をすべて取っ払うことが昨年宣言されました。要するに、個人独裁から集団指導体制を経て、また個人独裁に戻ってしまったということです。これは中華人民共和国の歴史を考える上で大きな転換点といえます。
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