アステイオン

連載企画

「植物の土壌」研究者を訪ねた驚き──けいはんなで文系と理系を考える

2022年12月14日(水)08時10分
三谷宗一郎(甲南大学法学部准教授)
土壌

Mintr-iStock


<関西のサイエンスシティ「けいはんな学研都市」の施設を巡り、対話を重ねた文系研究者が気付かされたこと。私たちは研究という行為を見つめ直してこなかった──>


※第2回:「研究の面白さがわからなかった」という文系研究者、SF『戦闘妖精・雪風』を思い出す より続く

サントリー文化財団が編集する論壇誌『アステイオン』では、いわゆる理系・文系とが相互の研究室を訪問し、その源流を辿ることによって、それぞれの文化の融解を狙う連載企画「超えるのではなく辿る、二つの文化」を掲載している。97号本誌掲載「解く理系に問う文系」のスピンオフとして、研究室の訪問レポートを写真とともに紹介する。第3回訪問先は村田純氏(サントリー生命科学財団主席研究員)。

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サントリーワールドリサーチセンター前にて 撮影:宮野公樹

◇ ◇ ◇

「学問との再契約」を目指して、最後に一行が向かったのは、けいはんな学研都市であった。ここに居を構えるサントリー生命科学財団(以下、生科財団)、国立国会図書館関西館、そして国際高等研究所の3つの施設をめぐる中で、さまざまな形で「知の越境」を体感することとなった。

そもそも、けいはんな学研都市とは、京都、大阪、奈良の3府県にまたがって建設・整備が進められているサイエンスシティを指す。

1987年に関西文化学術研究都市建設促進法が制定され、東の「つくば研究学園都市」とともに国家的プロジェクトとして位置付けられてきた。約15,000haの広大な敷地に12の文化学術研究地区が設定され、各地区に150以上の研究施設や文化施設が立地している。

このうち、中心部にあたる精華・西木津地区(京都府相楽郡精華町および木津川市)に位置するサントリーワールドリサーチセンターには、サントリーの関連会社が有する3つの自然科学系の研究所とともに、本企画・第三弾の舞台となる生科財団が入所している。

生科財団は、1946年に「学問や文化を通じて世界の平和と繁栄に貢献する」という理念の下、サントリー二代目社長・佐治敬三によって創設された食品化学研究所を前身とし、70年以上にわたって生命有機化学分野の基礎研究の発展に貢献してきた。

ここで植物と土壌微生物との関わり合いの解明に取り組んでいるのが、生科財団の村田純主席研究員である。植物の根を取り囲む土壌には、その植物の生長を促進・阻害する土壌微生物が存在している。

これまで村田は、土壌微生物が産生する揮発性の成分が、植物の生長を阻害するメカニズムを解明してきた。そしてその一方で、生長を阻害された植物が、周囲の土壌に別の物質を分泌しながら、今度は近くの植物の生長が阻害されにくくする、という現象も発見した。

訪問した実験室では、異なる条件に分けたシャーレの上で、実際に土壌微生物が植物の生長に影響を及ぼしている様子も見ることができた。こうした研究によって得られた知見は、園芸や作物の生産性向上に応用することが期待できるという。

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